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( つづき )
なんとなく満ち足りた帰り道、
東京への高速道路に通ずる国道に
どうということのない分岐でなぜか乗り損ねて道をはずれ、
トンネルに入ったりクランクしたり上ったり下りたり、
どんどんドツボにはまってとうとう山の中に来た
*
いったいどうすれば
間違えようのない高速道路めざして
こんな細過ぎる山道に入ることになるのか?
という具合に修正が効かなくなり、、、、、
どんどんどんどん道は細くなり、
しかも信じられないほどの急斜面になり、、、、
( 坂だとおもってるがじつは壁なんじゃないか・・・? )
1ミリでもハンドルミスをすれば転げ落ちるか
側溝にタイヤをはずすか電柱をこするかオーバーヒートするか、
もうバックも出来ないUターンも出来ない、上にも登れない、
これぞ進退極まる、
というような前代未聞の絶体絶命になった
どこでなにが起こってこうなったんだろうか
じぶんがタテなのかヨコなのかわからない
ここはまだ、横須賀だろうか・・・?
まさかいきなり山形県・・・?
村・・・?
*
この先は断崖絶壁かタヌキに騙されるかのどちらか、
まるで見当もつかない恐ろしい山道で、
スキーで降りるにも絶叫の急斜度、
わたしどころか三浦雄一郎すらターンをこなせずに
木にぶつかって死ぬまで絶対に止まれないような
非現実的に狭隘な山道なんだが、
どういうわけか民家がずっと連なっていて、
いったいなにが悲しくてこんなところに住むのか、
流刑地なのか、部落なのか、修験者なのか天狗たちなのか、
またはいきなりタイムスリップして日本昔話の里山に来たのか、
住民は全員タヌキかキツネに決まっている!
とおもいつつ、
でも誰かに頼らなくては
ここを攻略できなくて東京方面へ帰れない、どうしよう!!
それで思い切ってサイドブレーキをグンと強く引き、
車がシューッと落ちてゆかないように石をタイヤの下に置き、
そろそろと気を配りながら、後ろ向きのまま、
1軒だけ、軒灯の点けてあった、
とある民家をノックした
*
ハイ、と女性の声が聞こえてホッとしたが、
まるでこちらをキツネか雪女とでも決めつけているみたいに、
人間のかたちをした何者かが、
じつに細いスキマを扉でつくり、
片目でこちらをうかがっている ・・・・・
( キツネはそっちだっちゅうのに )
「 アヤヤ夜分にすみません、あああ道に迷いまして、
ヨコヨコ ( 横浜横須賀道路 )に乗っかるつもりが
なぜかこんなワケのわからない山の中へ、
あッごめんなさい失礼、
果たしてここから、東京方面へ帰れますでしょうか・・・
アッそもそも開港150周年のために
函館から横須賀まで来たのですからどうか・・・ 」
、、となるべくキツネかと怪しまれないように
現実的な説明を加えて嘆いた
( なぜならキツネは150年を知らないからだ )
ここで扉が閉まれば万事休す!!
*
すると中から人間の形をした男女が揃って出てらして、
道の説明をくださった
「 いけないようにみえるけれどもいける 」
少し安心したわたしは、腰が抜けつつも、
開港150周年の説明と宣伝をぺらぺらとはじめ、
是非とも函館に、
いや函館より横須賀のほうがかっこいいのは知ってますが、
やっぱり函館もそれなりに、ですから是非、などなどと、
親善大使みたいな気分で友好を述べた
*
じっくりと聞き入ってくださるご夫妻、
「 うちの息子もそういうの好きだぜ、音楽とか! 」 として、
「 名刺ねえのか 」 とご主人がいうから
「 名刺どころか、なんと本のチラシまであります!! 」 といって、
最近出版の運びとなったじぶんの書籍の宣伝もした
*
失礼なついでに、
いったいなぜ皆さんはここに住むのですか、
( ほんとうはキツネかタヌキなんじゃないのですか ) と、
恐る恐る訊くと、
「 なんたってあなたすばらしい気候と景色、
ここは全部さくらの木で、海も基地もはるか眼下に一望、
それはそれはうつくしいところなのよ、
あんたも住んでみんさい 」
ときた
( これはキツネかタヌキでも言える内容だ )
*
「 へえー、、へ、へええー、、、フーン 」 と、
この地理に対してすでに腰が抜けているわたしは、
ホントかよと思いながら
どうでもよい返事をして身をひるがえし、
さっと車にのって云われたとおり
恐ろしすぎる急斜面を死ぬ気で吹かした
ノーズが真上を向いて、もうひっくり返りそうだったが、
登りきってからさらに、
まったく急すぎて道が見えない、急斜面ヘアピンカーブで
またしてもとんでもない坂をジェットコースターの如くくだり、
予言された袋小路になったところでUターンをして、
さきほどのキツネ夫妻の邸の前に、予言どおり戻れた、
、、とおもったら夫妻、
まだ外にいてきちんと見守ってくださっていたので感動
*
その後、
ゼッタイにすれ違えないっちゅうのに
向こうからバイクのおじいさんが来て、
おじいさんのほうで停車し、ヒュウと端に寄ったかとおもうと
いきなりぺらぺらな薄い二次元体に姿を変えたので、
奇跡的に通ることができた・・・
なんだいまのは!!
、、、ハッハーン、やっぱりそういう人種の山だったか・・・
*
そうして無事に、といいたいが、
「 こうこうこうこうこう、で16号、逗葉新道、
でヨコヨコ道路、だから帰れるだろ!!
それで大丈夫だ!! 」
と大声で請け合ったキツネ主人を信じて、
こうこうこう、と道をゆくも
またしても山中しばらく迷いつづけ、
ようやくにして昔通いつめた逗子まで来ると
安心して高速道路に突入したが、
果たしてガソリンタンクがほぼカラだった・・・・
*
スカは、まあいいところだ
( つづく )
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