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函館の海上自衛隊の付近で3月のある夜、
金糸の縫い取りも華やかな、
白と紺色のマドロス制帽にブレザー姿の男がひとり
闇をゆくのを見かけたので
ただちにキュイッと車を降りて走り寄り、
「 その帽子はどこで入手できるのですかッ! 」
とたづねたとき、
ウワァァァッ!! と先方ひとつ驚いてから、
「 横須賀のドブ板横丁あたり 」
というので数日たって横須賀へ車を飛ばした
*
スカには、
我が友だちのクレイジー・ジョーが居る
北海道ははるか芦別( あしべつ )出身で、
自由気ままでクールなバスカー( 大道ミュージシャン )
としての人生を欲し、肉体労働を転々としながら、
あまりにもテキトーなバーを営んでそこに住居し、
( 客席がたぶん寝床 )
路上で歌をうたったり仕事を探したり、
酒を飲んだりしている50代の男だ
ローリング・ストーンズが来日したときに、
六本木でキースに、
彼自身のうたを聴かせたという武勇伝を持つ
*
ちょうどドブ板横丁の上の路地に、
彼の店は、ある
かなりデンジャーなので近寄らず、
店の前を素通りして充分に離れてから電話する
昔の電話番号、まだ通じるだろうか、
と確認するとふたつの番号が控えてあった
*
1件目 、、、 「 ハイ 」
「 ジョー? 」
「 うん 」
「 クレイジージョー? 」
「 ・・・エッ、英語?おれ?クレイジー?
オウ、ノウ!!アイムノット・クレイジー・ジョウ! 」 ブツッ
2件目 、、、 「 ハイ 」
「 ジョー? クレイジージョー? 」
「 うん・・・ オレ、
今、、オッパマ( 追浜 )の造船所で働いてんだ 」
*
ああ、なつかしいジョーの声だ
へええ!船造ってんのかい!すごいなあ!!
高田家嘉兵衛つながり!!
函館どっくつながり!!
「 イヤ俺はまったく船造ってない 」
あっそう
*
元気かな、つらくはないかな、風邪ひいてないかな、
さびしくはないかな、メシ食えてるかな、風呂入ってるかな、
歯磨いてるかな、ババンババンバンバン、、
と、少し感傷的な気分が差し込んだけれども
グッとこらえた
( ひとは、いちどでも過酷な肉体労働現場をともにすると、
血の通った兄弟分になるものなんですよ )
「 ジョー、あんたの横須賀にいるんだけれど...
マドロス制帽を売る店が、
半日探し歩いてもないんだよ、
心当たりがあったら知らせておくれね・・・ 」
*
一軒だけ、こじんまりとしたテーラーがあった
あきらかに海軍制服専門店で、
一般人は買えない現行正規品だとおもったがノックした
「 スイマセン素人なんですけど 」
「 ああ、どうぞよろしいですよ、
うちもね、たまにいらっしゃるんで慣れてます、
コスプレのお客様がね・・・
うーん軍の古いのを扱ってた店はね、たしかにドブ板に、
たくさんあったですが今ではもう、えええ、、
軒並み無くなってるのですハイ、残念ですね、、
へえ、函館から!!わざわざ帽子を探しに!!
ここ横須賀まで!!ああああそれはそれは!!!
へえーえ函館も今年、開港150周年なのでしたか!
それはそれは!ショウの衣装になさるのですか、へえ3個も!
へえなるほど、まあコスプレですねいわば!へえー! 」
*
ひとまず戦利品はナシとして
もういちどドブ板に戻ってしぶとく入った店
- 海軍さんの帽子探してるんですけど・・・
あ、これだ! でも緑色だなあ、なんで?
といって確認すると、ドイツの警察制帽だった
- 海がテーマの企画に警察じゃあんまり意味ないね?
しかもドイツの!
これはまずい、物騒だね?赤い腕章は・・・?
などとしているうちに、
海軍ならいずれ入荷できるかもしれないよ、
といってくださったので、連絡先を預けた
*
なお未練がましく次の店へ
店主らしきひとと当たり障りのない会話を続けると
そのひとは偶然にもヨットマンだった
*
わたしは急に目つきをギラッと変えてペラペラとかきくどき、
開港150周年の函館に、夏に、ヨットで、いらしてほしい旨を、
しつこくしつこくしつこくしつこく食い下がると、
葉山マリーナを根城にする、
ベテランのシーメンズを紹介してくださり、
日を改めて、ヨット上でのアサリパーティに招待してくれたうえ、
その場で出していただいた、
葉山のパッパニーニョさんのおいしい珈琲を、
豆ごとプレゼントしてくれたりした
*
スカは、いいところだ
( つづく )
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