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いきなりハプニングがあって呼び出され、
ものすごく忙しくて時間に追われていたのに
ところが予定通りの行動よりは
突発事項が好きであるじぶんの癖( ヘキ )が邪魔をして
急遽、【 それ 】 を間にさしはさむことにして車を向ける
おかげできょう、
詰め込んだ予定は完遂されないのだろう
東京滞在も大詰めで、
こちらにいるあいだに済ませなければならない、
大小のミッションがじつは、
山ほどあるんだ
*
それでも
突発事項とは往々にして魅力的なものになることを
わたしのヘキは知っているのサ
それに
予定通りの遂行のためにカリカリするなんてのは、
どことなく野暮なカンジもするからね
だからわたしは結果として
カッコつけたことになるんだけれども
結構結構さ
*
銀座中央通りで
小造りで上品なマフィアの大ボスをスイッと拾い、
竹芝桟橋方面へ走る、雨の夕べ
( きのう洗車をしたので、
毎度、例によって雨が降りました )
レインボーブリッヂが曇天にも映えますね君。
君は運転がうまい。
それにしてもなんだこの狭い車は。
戦車みたいだな?
もしくはヴィエトナムへ撮影にでも行くのか。悪くないが。
いったい君はなんなんだ?
- それよりボスあなたのほうが何者なのか?
と訊く
じゃあ君、僕の毎朝のルーティンを明かしておこう、
便宜のために、知っておいたほうがいい
といって湾岸に位置するレストランの席へ落ち着いてから
彼が話し始めたのは、以下だった
*
僕は毎朝、日の出と会話するために
mm、そうだな、今の時期なら4時前には起きる。
- へぇ4時に。
前だよ。4時前だ。
東に梅干が現れるだろう、
- ウメボシ?
やだねえだから太陽だよ太陽わからないな君も。
僕はその梅干が大好きなんだよね。
それがだんだん大きくなるにつれ、
僕はやあおはよう、元気かね、とかなんとか挨拶を交わす。
そのうち目も開けていられなくなる。
御免! と太陽にあやまって僕はサッとレースの窓掛けを引く。
同時に僕の娘達がズラリとヴェランダに並ぶだろう。
- 娘達?
イヤだからスズメだよスズメ。わからないな君も。
でその娘達は僕のヴェランダの自慢の花々のまわりで
おはようだの元気かいだの愛してるだのって騒いでね、
僕が窓を開けてやるとね、一同、ニヤッ とするんだよ。
でもまだエサはやらない。
- ニヤッと? スズメが?
するんだよ!わからないかなそういうの。
黙ってお聴きなさいよ君も。
Do you understand me ?
そうしてだね、
僕はお茶を淹れて飲む。
同時にだね、冷凍常備してある手羽先をね、
- 手羽先?
うるさいなあ!
手羽先だよ鶏のね、こう、肘の曲がったようなやつね。
あれを2本出してきてペッパーをふるよ。
そうしておいてオヴンに入れるだろう。
その時分でちょうど5時前くらいだ。
- 手羽先は食べるつもりですか? 早朝に?
ほかにどうしようがあるかい!
食べるのさね!約15分後には香ばしく焼きあがるだろう、
で、500ml を出してくる。
- 500ml とは?
缶ビールじゃないか当たり前のことばかり!
わからないやつだ君も。
- 朝5時に?
5時だ、4時ではない!
でちょうど僕はいいゴキゲンだろう。
そうしてお茶をまた淹れる。
君、僕のお茶を飲んだら舌がとろけるよ。
まあこのころには娘達はガマンができなくて、
あ娘達とはスズメね、さっき云ったろう。
キイキイととんでもなくヴォリュームを上げてヒステリックに啼く。
「 エサーーーーーーーッッッ!!!!!! 」
と云っているんだねあれは。
そうして焦らしておいてから僕のご飯の準備をする。
さっきの手羽先はご飯じゃないよ、
あれはあくまでも手羽先であってご飯じゃない。
僕の手羽先とビールの時間だ。
ご飯を炊き、おみおつけをつくり、漬け物を出し、
準備が整ったら、ようやく娘達にもエサをやるんだ。
どうだ、一緒に食べるんだよ。いいだろう。
そうして食べ終わった食器は洗わない。
面倒だからね。
またお茶を淹れる。
うまいんだよほんとうに、僕のお茶は。
君とろけるよ。
そうして梅干を食べるんだ。
- 太陽をですか?
梅干だよ!!梅干といったろう!!太陽を喰うやつがあるか君。
紀州のね、大きな贅沢なヤツだよ!僕は切らしたことがないんだ。
そうして7時がくると、僕はふたたび寝るんだよ。
- 寝る?また?
寝るの。だって早く起きたんだから。
その分を寝るんだよ。わからないかな君は?
寝ないなんてのはダメなヤツだ。
二度寝するんだ。
それから1時間後の8時にシャキッと自然に起きて、
タイプライタの前に正しくすわり、無事に仕事を始めるんだ。
きっちり8時から始めるんだ。
すぐにでもドイツからファクスが流れてくるよ。
すべてはオン・タイムだ。オン・タイム。
Are you OK ?
これが毎朝の、僕のルーティン。
毎日毎日、おんなじだ。
まあルーティンってんだから、そうだ。
僕の会話は、毎日、
朝日とスズメとに端を発するんだから
なにしろ磨き方が違うんだよ。
わかったろう。僕の朝。
覚えておいたほうがいい、便宜のために。
- ・・・・・・・・・・。