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肺炎に珈琲はマズいだろうか?
と影響を調べたりしてみたが、まあわからなかった
ただ 『 カフェインは、テオ...ナントカより
ナントカ基幹( だったか )がひとつ足りないだけだから
呼吸器などの細胞( かなにか )を拡張して、
酸素供給がしやすくなる[ かも知れない ] 』 という、
あまりあてにならない表記はあったのでそれでヨシとして、
濃い珈琲を落として飲んだ
*
肺炎気味となって10日ほどが経つ
病院によっても薬によっても
事態はなんにもよくならず、
肺の酸素量があきらかにスゥーッと減少し、
ときどき呼吸困難となった
気管は
上から下まで痰に籠絡されており、
呼吸音の逐一は、死をまつ入院患者の
痰と絶望のみを呼吸するそれに等しい
死ぬまえの祖父の居た、
しずかな病室をおもいだした
植物のように
誰ももの云えぬひっそりとした古い6人部屋の、
白いカーテンが揺れて、
向かいのベッドで白目を剥いている鹿造さんのラジオから
低くサン・サーンスが鳴っていた光景は
いまもずっとおぼえている
*
じぶんの肺炎の、原因を知っている
十日と少し前に、ひとからいただいた煎餅を
口に放り込んでいると
ふいにひとり、思い出し笑いに捕らわれて、
ハァッハ!! と云って呼吸を引きつらせたらなんと煎餅が
瞬時に喉の奥深くに吸い込まれ、
その硬くギザギザした凶器は
そうして咽喉に傷を負わせながら胃に向かった
すごく痛くて、
ああ笑って損したとおもった
その咽喉の傷から、あとでウィルスが入ったんだ
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通常、筋トレのお客様には、
たとえばランのときの連続した呼吸は鼻から吸うように、
と指導しているのですがこれは、
喉から直接に外気を吸い込む作業は
鼻のフィルタを通さない分、
身体の衛生面においてリスクが大きいからだ
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医者に、
かくかくしかじかです、と原因を伝えると、
「 ブゥッフ!!煎餅!!
まさか老人じゃあるまいし、そんな原因はない 」
と投げ捨てられて腹が立った
GW中の急患外来の医者というのは、
わからずやなもんだ
*
熱は
いつまでも胸を去らなくて
太陽の子かなにかを抱えているみたいに熱い
求めたのは、
ラジカセを移動させてデズモンドを低く鳴らしてある寝室
西陽が射していてうつくしく、
夕方の風が通り、
シーツやタオルが親密にしわくちゃで
枕元に本が積み重ねてある、
この嬉しくてふるえ上がりそうな部屋
ヴォリュームを小さく小さくしぼるほどに
彼等の音楽がなぜかよく聴こえるので
このひとたちの音楽の秘密を、知ったような気がする
同時に、
わたしはじぶんが
なにを欲しているのかを、知ったような気がする
*
苦しい日々の或る一日、
打ち合わせがあって車で外出した
「 泥酔してもエリート 」
鯛とは、腐っても鯛なものだし、
エリートは、泥酔してもエリートなものだが
このひとの酔ってなおさら磨きのかかる滑舌に
ペラペラと取り巻かれ、釣り込まれるのは心地がいいほどだ
肺炎のことも、忘れる
真理というものは
通常、とても重量のあるもののようにおもえるもの、
ところが、酒を得たこのひとにかかると、
いともペラらかで軽量なものとなる
舌 飄軽として 春風にそよぎ
・・・ フンフン?
*
問い -
問いかけとは親密な、もしくは攻撃的なものである
問いかけに対して
答えというのはたいがい用意してある
質問するひとのためではない、
たぶん自分を守るための答えに過ぎない
だろう
そんな答えはもういいから
そのガードをはずすべきだとじぶんに云う
世界でいちばん純粋な問いとは、
「 なぜあなたはロミオであるのか 」 の類だとおもう
*
すこし
こうして体調が穏やかになってきて
何か強いリキュールでも味わってから寝ようなんておもうようになると
珈琲よりはアマレットでも飲んでおくんだった、
などとかんがえる
そしたら中国では杏仁が
去痰や鎮咳のくすりとして活かされるんだという、
ぐうぜんさっき知った