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雨の過日、
寒いシラムレンにて
めずらしくミロンガ風の盤が鳴っていて、
片腕の店主が瓶を抱えるようにして注いだ冷焼酎を
震えながら飲んでいる時、ヨネキが、
オイラのインタヴュー記事が出たよ、
と云うので
その、『 N...通信 』 とかいうやけにレアな雑誌を求めて
後日ジュンク堂へ立ち寄って購入し、
たった3分で、路上駐車しておいた車へ戻ったが
すでに警察がいてごめんなさいと3度いい、
自宅へ着くのも待たずに、車を運転しながら読んだ
ヨネキらしい、余韻を含んだような大写しの写真をみて
グッときたのみならず、
時にラジオからサンボーンが鳴って、心がときめいた
*
インタヴューとは
内容によらず、いうなれば、とても色っぽい対話のかたちで
いいインタヴューにおいては、
体温というのが感じられるものだが
( ものによってはときに、嫉妬すら催させる場合もある )
相性、目線、距離、タイミングなどによっても変わる
*
わたしはとても若い頃、
じつは何度か、インタヴューや対談、
というものを受けた経験があり
なにしろ喋るのが苦手なので筆談形式にしてもらったりしたが
これではインタヴューとしては、
じつのところ不完全だったろうとはおもう
なんにしろ、
渋谷にある名曲喫茶のヴェートーヴェンの胸像に見下ろされながら
黙々と、答えを鉛筆で、記していったのを覚えている
...ちょっと見てみよう、
と当時の雑誌やらを探してみたが、
もうどこにも見当たらない
よっぽど恥ずかしい仕上がりで、
きっと、重なる引越しにさっさと棄てちまったろうとおもはれる
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ヴェランダに置いた、
かつて 3月25日の日記に記しておいた、
丸の内からいただいてきたチューリップ
はじめ勢いよく、土から約80mmくらい葉が伸び、
その後、みどりもワクワクとほとばしらんばかりだったが、
しばらくそのまま思わせぶりにジッとするようになり、
そうしてずいぶんあまりに長い日々が経過したところ、
昨日あたりから、なんだか枯れてきました
・・・・・・・・・・・・
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雨もあがっていよいよ、
春たけなわとなった良い午後でありながら
どうやら他の植物たちもヘンナリとしていて気がかり
*
澁澤龍彦の( ナントカという )著書に、
( 忘れたが ) ナントカとかいう花は、
何時、、( とあったかは忘れたが )、
決まった何時 ( だったか ) に観るのがいっとうすてきで、
その ( ナントカという )花は生命に、はちきれんばかりに輝くが、
何時以降( だったかは忘れたが )、
なんでも何時以降( だったか )に観るのでは、
もはやその花を知らないにひとしい、 云々、、
、、、という、
( 誰だったか忘れたが ) 誰だかの言を抜粋したくだりが
あったはずで、このことをやけに覚えているが、
( ↑ 覚えているのか忘れているのか、
これは、どっちだとおもう )
うちのはぜんぶ、四六時中ヘンナリなんだから、
きっとダメなんだろう
じぶんの植物的才能のなさに
10本の指を眺めてみたりするのですが
ときに、かなしいことをおもいだした
*
*
もう何年も前のこと
雑木林の伐採に入り、
わたしはチェーンソーと剣スコップを、
そして
仲間がやみくもにユンボをあやつって、
乱暴に大地をかき回して伐根した
ユンボやチェーンソーの恐竜的サウンドが大音響する、
そんな互いの呼び合う声すら、まったく届かないなか、
その無闇なユンボ伐根をウンザリと見ていたわたしの耳に
ものすごく明瞭かつ清廉に、
おんなの声で、かなしく唄う旋律が聴こえてきて
恐竜に混じりあうことなく、
独立して、不思議に連綿と、
憂えたひびきが哀しいうつくしさをもって流れ、
( ユンボ氏を見たが彼は気付かない )
そうしてひとしきり後に、遠くに消えてゆき、
わたしは凍りついた
意味合いは異なるが、
話に聴く、海で云うところのセイレーンみたいなもののようで
わたしたちは死ぬんじゃないかとおもったがそれは
わたしたちを殺さずに、
永久にわたしからみどりのゆびを奪ったみたいな気がする
*
東京は春がきて
世の中の ( わたしのヴェランダ以外の ) すべての緑は
どこでもあかるく萌え立ち、
ケヤキの街道がどこまでも爽やかに続くので
車窓全開に風をゴウゴウと入れながら果てしなく走り、
たどりついた知らない街の花園で、
夕暮れの花々の匂いを吸い
*
夜遅く、
オリーヴオイルに香草を入れて熱し、
真ダコとトマトの上にジュワー、とぶっかけたのを食べたんです