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はじめてだった
雪のないゲレンデでなおかつ雨の中、
スキーのコーチをするというのは!
あと1日ガマンすればきっと雪が降るよッてえのに
昨シーズン奮発したマムートが、
ズンズン濡れしゃびてゆくのをどうすることもできずに
ひたすら天頂に着くのをまつ、
長すぎるリフト・ウェイも
笑顔を絶やさずに
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前日に
やけに浮かれた電話が知人たちからあって
エエ~こちら、
120年ぶりに激快晴のフカフカ雪、というコンディションを呈した、
ニセコ・チセヌプリの天辺へ
テレマーク・スキーに来ています、ヤンヤヤンヤ、
という憎い声を
いやでも思い出しながら
今回、雨の、黒いゲレンデへ同行したお客様たちには
このゲンナリする光景は今日限り忘れて頂戴と、
なんどもお願いしたりして
よそから来た彼らに
本来の、真っ白な森、北緯43度ならではの高原滑走、
非現実的に全身全霊が粟立つアルペン・スキーの、
【 あの喜び 】 を体験してほしかったんだのに
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イヤーハッハッハ。
あれ? なんか云ったかな。
テレマーク・スキーを知る仲間たちは
なぜかあまりアルペン・スキーには目を向けなくなるが、
わたくしもようやく今回から
ゲレンデなんかをスイスイ滑るしか能がないアルペンが、
すみませんが、(ニヤニヤ
やけにつまらないものにおもえる、いやらしいひとりとなった
( いやあ悪いね、
アルペン愛好家のみなさん、イヤアほんとに )
どんなに速くても
どんなに急斜面でも
どんなにビシバシとギャップをこなしても
実はあんなもの、
ちょうど飽き飽きし出していたんだよ ( ←
さらには昨今、
誰でもそこそこ上手に楽しめる機能型流線型カーヴィング板
が主流、とあってはなおさら
エンジョイやファンは結構だとおもうが
雪山そのものとスキーとの奥深さやロマンが、
なんだか欠如してしまったように感ずるのです
うつくしいクラシックスタイルの、行き届いたフォームで
雪山への畏敬と陶酔とを光背にして、
しめやか且つ鮮やかに降りてくる老紳士なぞも見なくなったし、
もう未練はない( 断言癖 )、 として、
その日、山男のクニさんからの
テレマーク・スキーのお誘いにすぐに乗ったね
ほら、
雪もすっかり充分になったし
*
ゲレンデからバックカントリーへ、
これについては云々するつもりはないが
テレマーク・スキーについてだけ、いちおうさらりと触れます
これはビンディングがヒール・フリーの
歴史の古いというか、山を降りるという目的でのスキーにおける
最もプリミティヴなものであり、
発祥はもちろんノルウェイの山岳、
かくかくしかじか、ということです
ターン時がアルペンと異なり、そのフォームは、
ランジ・スクワット( 片足を前に出して行うスクワット )
のような姿勢を取るものです
ランジ・スクワットなんか、ただでさえしんどいのに
常にそのランジをしながら山を滑走するわけで、
人生初の種類の苦痛をともないます
( デビューなのに6時間も滑り続けるからでもあります )
しかもアルペンにおける長年の癖を凌駕するための
脳シナプスの開発をし続けながら滑るので、頭も疲弊します
( 何年もうまくならない同士が多いのです )
つらくてつらくて、本当につらくてしかたがないが、
滑走をやめて停止姿勢をとっても、
ビンディングでしっかり固定されたアルペンと違って
休むに休めない、体重の置き所のない、
クニャクニャの状態なのでさらに疲れ、
否応なく滑り続けるしかない、
あたかも罰ゲームの如きともおもえます初心者には!
とはいえ
うっとりするほどうつくしい力学的理論を孕み、
それは四方から殴りかかる吹雪のなか、
前など見えなくていい、
猛然とトライし続ける価値あるほどのものです
*
わたしは6時間の夢の中から帰り、
気がつくとひとりでは歩けない、お婆さんになった
大腿筋と殿筋のみならず、
三頭筋( 二の腕!)と左首にまでひどい筋肉痛があるのは、
まったくなぜかわからない
その夜は
お客様から、函館市内での海鮮の食事に誘われており、
まず山を降りてすぐ、
魚の前に、
強烈なたんぱく質を喰らわなくてはならないとおもい、
いつもの店でひとり、
口ばかりは興奮してテレマーク談義をしながら
前食事( 肉食 )を済ませたね
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その後、
昨シーズンかもっと前あたりから
先におなじくテレマーク・スキーに夢中になっていて
未だまったくうまくならない( アルペン・クラシックはとても上手な )
木こりのU氏から、
「 デビューおめでとう、
ヒール・フリーは別世界を見に行けますよ、
今度行こうぜ、異次元に 」
というメールをいただいたが、
わたしももはや、
誰彼となくこの言葉を送りたくて
すっかりウズウズしているってわけです
ああ、今度もおもしろいことがいっぱい!!