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帰宅し、堕落した気分のうえ、
発情期の黒猫エバにうんざりしていた或る夜、
突如 G氏から電話があって
明けましておめでとうという挨拶は省略するがそれよりも、
と前置きして結局明けましておめでとうと云い、
君の会うべきひとが来ている、
もし函館にいるならすぐ店にいらっしゃいというから
さて、という感じで鏡にスイと顔を映して、
ふたたびさっさと車を出して盛り場へ出た
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所在ないような、いつもの独特な感じで
止まり木にいらしたのは
東大出のパワーエリート暦もすでにベテランの域、
敬愛する渡島支庁長
( → 南北海道知事、みたいな存在ですかね? )
やあ明けましておめでとう久しぶり云々、
といった挨拶を交わしたような交わさないような、
あるいは挨拶すらそこそこに、
まず真っ先に、函館における次の企画の話をしたり、
なぜかビートルズをハモったり、
別の町の話をうかがったりして、平和に時が過ぎた
*
正月明けから早々、
支庁長にお目にかかれたとは幸先がよいな
大吉です
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ガマンができなくてまた
山男ヒゲ氏にテレマーク・スキーの特訓をしてもらう
天に祈ったとおり
すばらしい雪が降りつづき、その日のゲレンデは至上のコンディション
何十回となくリフトやゴンドラに乗っても
いちいちビックリし、その絶景に雄叫びが出そうになる、
のを呑み込んでは溜め息に替え、( 嘘
滑走するにいたっては
眼下に噴煙を吐くうつくしい火山と
周囲からだんだん凍りついてゆく湖とに向かう、
イヤミなほど十分に、雄大なるロケーション
ああいやだなあ、
こんなにしあわせで
しかも平日だのに、イイ大人がたくさんいるわ
【 大蝦夷白珊瑚 】 とはいつからか、
誰かがつけた、雪を幹と枝の隅々にまでもったりとつけた、
真っ白な冬の木々の名前だそうで、
ほんとうにみごとな珊瑚群にみえるのであります
( いつかテレマーク・スキーをマスターしたなら
仲間と、これらの珊瑚群の間を
” オクトパス・ガーデン ” か ” イエロー・サブマリン ”
なんかを、ばかみたいに呑気に合唱して滑走したい )
かような周囲の雄大なロマンとは裏腹に
またもわたしの足はとっくにダメになり、
恥ずかしいほどにゼイゼイしたりして髪の毛を振り乱し、
それでもなんとかその日を終えて、
また肉を喰らいに、斜陽した下界へ
ズタズタになって降りた
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V社で、新車発表展示会があり、
そこで知人のレストランのケーキを提供する、
という役目を承った
お客様にケーキや珈琲をサーヴしてもてなし続ける2日間だが、
そこへ地元FM局から生中継車がやってきて
不思議なことに、
わたしが対応することになった
本番15分前にやってきたクルーに、
どんなことを聞かれるのでしょう、と訊ねると、
「 新車の特徴は 」 とか 「 どういった点が云々 」 とか
いろいろ車のことを聞きますというので当然ビックリしながら、
いけシャアシャアと、
「 スカンジナビアン・ラグジュアリを醸し、
V8エンジン搭載、うつくしい曲線、バックミラーは死角がなく、
ええとなに、パンチングされたクールな本革シートで
スタイリッシュに湿度調整、
人と環境にやさしい、その走りはまるで、云々 」
・・・・ などとあわててアレコレと羅列してみたが、
どう考えても
あまりに門外漢で白々しく、なんの説得力もなし、
しかもこの街では面が割れていて、
かつ、やけにちょこちょこと同ラジオに出ているわたしが、
こんどは車の宣伝をしていやがるぜ?
とおもわれるのは不如意だなあ、
というより V社のほうこそ不如意なはずだなあ、
絶対にヘンだよなあとおもいながらも、
暗記なんかしたりしているうちに、
メカのひとが間に合ったので
車の宣伝は駆けつけたメカ氏のベシャリになり、
それでわたしは
V社とその社長と、レストランとを宣伝して、
さりげなく 「 ラグジュアリ 」 とか付け足してみたり、
プレゼントにワイン、「 あ、サンテミリオンですわ 」
とか付け足してみたりして、
たぶん事なきを得、( と思い込むようにし )
化粧室で汗を拭いたものです