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囁きと馬鹿笑い、
その夜は誰のうえにもメロウに過ぎ。
月は糸引眉のごとし。
ボギーの店はそこだ。
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カウンタ上のフォイエルバッハ論。
山崎のハイボール。
軽薄な声。
フォイエルバッハ氏ら以外に客がないので
頭の中に猥雑で気ままなざわめきを空想して、
そこへブレンド。
mm、グッドだね。
始終、伏し目で仕事をし、客と目を合わせないバーテンダ
それでこそ都会のバーである。
わたくしのほうもカウンタを選ばない。
狭い部屋の、壁際に張り付いたジプシー席に寄りかかり
強くて甘い酒を発注し、あとは放心しちまう。
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あの部屋を
夜に孕むがゆえに都会は都会であり
人と人とは艶めき、
存分なデカダンスとクレイドリィを喫し
いっそう奔放に都会らしさを増すんだから
そこがセンスだ。
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茶色に煤けた漆喰壁と
こってりとモールディングを回した漆喰天井とを
古いジャズがうっとりと舐めては低く、それは低く循環する、
Kという細長い部屋の、
やはり古くてうっとりするほどふかふかしたクッションで
ダイキリか何かをこぼしながらさらに酔い続ける男の
ニヒルにだらしのない姿をおもいだす
酔眼、月笑ひ どこ吹く風の 慧眼の士
あれはじつにキュートな夜
*
帰宅して冷蔵庫からドン・シモンを取り出す。
さっきのアブサンが
マンゴージュースにとって替わり、
ノロウィルスのことなどてんで忘れた身体に沁み入る。
健康ってすばらしい。
ストリップ嬢をさがしていた、或る一夜
*
スペインの悩ましい音楽が鳴り、
さっきのよりはマシな二人目のレディが
裸になってシートをまわり、
男達にまたがっては胸を吸わせた
途中、おんなが腰を振りながら、
「 この店ひろすぎるわ 」 と独白したのが聴こえ、
わたしと目が合ったので、ウィンクと喝采を送った
おんなの練り歩いたあとには、
どぎついカラフルな鳥の羽が点々と落ちている
*
ストリップを調査するために、
トシに電話した
ねえトシ、パンタが函館で演ったみたいだね、
トシは二年後にわたしが呼ぶよ、といったら
二年後の話?鬼が笑うじゃねえかよ、といわれた
今なにしてる、と訊くと
「 布団にくるまってる、今日はもうここから出ない 」
四畳半のコクーンに暮らし、
昼間から、寒いので今日はもう布団から出ない、
と決め込む、50もとうに過ぎた世界的な男に、
わたし感動する
ところで
アドリブがきいて、
かつ俗っぽくないストリップ嬢が身近にいないか訊ねると、
ひとり知ってる、
彼女の金粉ショーをこないだ見てきた、というから
こんど紹介してもらうことにした
彼なら、
ひとりといわず沢山知ってるはずだったが、
なんせ昔の話なのでみんな年をとったのだろう
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その後、
それらについて法律の必要があって
米国ミシガン大で法学教授をやっているくせに、
体脂肪率8%を誇ったりする、( というか互いに誇り合う )
ムキムキ自慢のウェスト氏にメールした。
以前彼が、オレは日本語版で毎日日経を読むし、
六法全書も日本語だぜ、とのたまうのを聞き流していたので、
いじめてやろうとおもって質問攻めにしたが、
はるか時差の彼方から、たいそう的確な返信が
いちいち返ってくるのでたまげていると
sachi 、あんたねえ、
とくに風営法なんてのはデリヘルのオーナーにも
わかるように書いてあるんやから、
と聞き捨てならない生意気な内容を
関西弁で返してきたとあって、またもやたまげた。
いやなやつだこと。
最近、マジで悩んでいるという彼が
「 sachi 、愛とはなんだろう? 」 というから
「 筋肉さ 」 と答える。
そんなこともわからないなんて
ばかな法学教授だ。
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それではよいクリスマスを。
白金に住むデザイナのたつぞうから届いた画像が
彼らしく、ラックスでとっても綺麗だったので勝手に使います、
( たつぞう愛してるよ )
みなさんへ。
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