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寒い
この空気、この空気
なによりこの寒い空気がすきなんだよね
あらゆる憧れも
あらゆる空想も
この寒い空気とともにあらわれることを
きょう、すっかりおもいだした
あの孤独
あの青白い部屋
あの葉陰の静寂
車の窓からこの冷たい風が入ってくると
忘れるべきでないあらゆることをおもいだした
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JBのところへ
ようやく時間をつくって挨拶に行った
夜、彼の牧場へ向かう国道の途中で
カヴァを4本とペリエとを買い、
それから大きくてうつくしい流れ星をみた
ヒュー、ブラボー、イェーイ、 と
ひとり長々と叫ぶうちに消えてしまい、なんにも願わなかった
24日におこなわれる 【 大沼 Hot Ride - ほとりで 】 が
晴れにめぐまれるように願わなくてはならないのに
( なんたって遠路、札幌からもまだ見ぬお客様が
わざわざカヌーを持ってその日
大沼へ遊びに来てくれるというのだし )
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天空で起こるあらゆることを
この土地では見ることができる
これまで、
とても云えないようなあらゆる出来事を、
この土地の夜天に見てきた
木こりのU氏もまじえて
JBのワイルドな手料理を食べて満腹になって深夜に
彼の邸を出ると天幕は真っ暗で星もなく
そのうえさらに黒々としたシルエットとなって火山があった
みんなで黙ってすこしの間、そのさまを見た
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椴法華( トドホッケと読む! ) という遠くの沿岸地域で
出張演奏をしているという函館のミュージシャン達に挨拶事項があって
そちらへ出向いた、
海!! それがチャンスでわたし、
はげしくサザンオールスターズの古いテープを聴きながら
寂しい北の沿岸道路を、長々とぶッ飛ばした
これでわたしはようやく夏を納められるとおもいながら
これらの北の漁港に無理矢理、
湘南の海風なんかを感じてみたりしたが
途中でキュルキュルキュル!と鳴ってなんとテープが滞り、
そればかりか引っかかって出て来なくなり、
あっけなくわたしの夏が終わった
他に控えてあるテープといえば
冬に積んだままの八代亜紀と、広澤虎造の次郎長伝と、
P.デズモンドと、カントリーウェスタンだった
チッ
今は 意地でもそのようなものは聴かない
しがみつきたいわたしの夏にはね - 。
*
その復路、はるばる函館に入るまでの長い時間
あまりにうつくしい海と
夕暮れてゆく空とに目を奪われて
なんどもなんどもなんども、途中で車を停め、
海へと下りた
海に臨んで暮らす漁師の小さな家々
このひとたちは
こうして毎日ちがった色とダイナミズムとのなかで暮らしている
その人生のひとつひとつは、とてつもない
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沿岸で夕暮れの色という色を見尽くしてのち、
暗くなって函館に入り、
あちこちに手描きのポスター貼付をお願いして歩き、
しばらくいつもの、
誰もいない店のひとりの居場所でゆらりと
スケジュールノートをチェックしながら過ごして
メールのあった suga 氏が
わたしの居所を探し当てるのを待ち、
( 探せないようなので場所を変えた )
それからいっしょに 【 真夜中の郵便配達 】 をやった
これはわたしの恒例で、
昔から街のひとに伝えたい出来事があると
そうやって、
どんなひとが暮らしているだろうという家を見つけては
一軒一軒、深夜にポスティングして歩く
真夜中に郵便を待ったことがあるひとなら誰でも、
きっと歓迎してくれるとおもうのだけれど
いまだこの方法での反応をいただいたことはいちどもない
が、
楽しくてたまらないのでこのあかるい月夜に
山側から海へとくだる地域をくまなく、
家から家へとあるいた
【 大沼 Hot Ride - ほとりで 】 のフライヤを、
深夜に歓迎するポストを求めて
いつもならひとりでやる遊びだが
この晩は suga 氏が共犯したので
ひとつ秘密を知られたような気分で落ち着かなかった
途中で日付が変わり、
月が満ちた
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ミントティを飲もう
ひどい淋しさに対してはお茶だお茶がいいでしょう
正確な会話などないことが
わたしをひどく苦しめるのです
だれも、
なにかについて正確に会話することはできない