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夜、仕事の合間に
気に入っている店の二階へ木造階段をのぼり
やはりいつものように誰もいない部屋で
一本のハイネケンを届けてもらうと
見下ろす港で
夜の汽笛がぼうと鳴り
窓から蝿が一匹迷い込んであたまをかすめた
ひさびさに、スルスルと飲むビールと
函館らしくない夏の、長く続いた湿気が
ぬっと窓から入ってくる
だれもいないしずかな夜
かつて過ごした、
濃密な、童話じみた数々の函館の夜をおもいだす
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Y.が死んだ
わたしの弟君と同じ年のひとりのおんな
親子ほどとは云わないまでも、
歳の離れた A氏 が
死をまつ床の彼女にウェディングドレスを着せ、
指輪交換をして結婚してから何日経ったろう
ちょうど彼女が死んだ日、
わたしの函館滞在中ではじめて、
夜空が星で満たされた
ながかった曇天と霧の夜が明けて
【 夏の月 】 というあたらしい名前を得た、かわいい Y.
彼女が死んだ夜、
わたしたちは
街のそう遠くない場所でサックスを聴いていたが
そのあとで連絡を受けてすぐに彼女のもとへ駆けつけて
笑っている死体を見ていた
長いことその姿を見て夜を更かしたが途中、
Y.の口から血がひとすじ、ゆっくりと流れ落ち、
白い小さな煙のようなものが
おなじ孔からポッと宙へ放たれたのを見た
ああ Y. さようなら
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翌日、大沼のカヌーハウスへゆくとみんな居た
いきなりようやく北海道らしい爽やかな夏の日が来て
空気がすこやかに変わったすでに晩夏
この空気
この風
このひかり
このミッド・サマー
早く来てみんな
早くここへ
うつくしく日焼けした痩身に
それぞれにカラフルな軽装をまとう若いカヌイストたち
やさしくて人懐こいみんなが居た
そしてちょうどそこに、
ベーシストのヨネキから電話
- 某トリオで西の旅が終わったら、そのあとで函館へ向かう
ああさっちん、そちらはそんなにすばらしいのか、
じゃあオイラ、予定より1日早く行くことにするよ
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深夜 - 。
夜天があんなに盛大な星々で満たされているというのに
なぜわたしは盛り場なんぞを渡り歩かなければならないのか
おなじくひとも
空があんなににぎやかなのに
盛り場で
行く先々のバーではどこでも
お偉そうなすべての男たちが大いに酔って騒いでいた
奇跡みたいな星々も見ずに
わたしはひたすら
ペリエだのトニックウォータで寒くなりながら、
9月のジャズ企画、 【 大沼 Hot Ride - ほとりで 】について、
転々と営業してまわった
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夜更け、帰宅する頃には巨大なオリオンが
地上すれすれを駆っていた
路上で車を停めて、いつまでも見た
あらゆる微細な星雲も
山のシルエットも
わたしは屋根のあるところへ帰りたくなかった
東京から
車にテントを積んでくるのをすっかり忘れていたが
シュラフだけはあった
ばかだなあ
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しつこく日記に登場する、
【 大沼 Hot Ride - ほとりで 】
詳細ページつくりました
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