■
夜半に雷が鳴って雨が降り、
秋が来た。
秋が来た。
- 湘南へもゆかなかったし、
サザンを聴きながらドライヴ、もしなかったから
なんだか夏をあじわった気がしないままに
ノロノロと瀕死のジムニーで東北道を北上しているあいだに、
夏らしかったというこの街の、みじかい貴重な時期すら逸した
■
その夜は店がヒマ過ぎて、
もうあきらめてビールとまぐろ中オチのオリーヴオイルがけを
食べることにして、実際そうしていたときに、
kenzo ファミリーが大所帯でやってきた。
外のアプローチにやってくるお客さまに気づくとわたしたちは、
「 神様が来た 」 といって互いに合図し合う。
結局ビールとまぐろは途中でおあずけになったが、
神様が来るとやっぱりうれしくていちいちワクワクする。
どんなに忙しくってもだ。
すごくワクワクする。
この店で3人で働くのは昔から、ものすごく楽しい。
*
店が引けるとわたしたちは
広いリヴィングのJBLで
ローランド・ハナを大音量で聴きながら
ブカッティーニを食べ、
いつものようにワインをどんどん飲んでいた。
音楽と食については話が尽きることなどないのでその後、
東京から持参してきた、
テナーの故・武田和命のライヴDVDを鑑賞した。
店主が、ドラムスの渡辺文男のプレイを褒めちぎった。
雷が止まなかった。
疲れているし明日も早いので
寝ようか寝ようかと云いつつ尽きない会話に、
別れたのが2時近くだったので
きょうになってわたしたちはみんな、
とっても眠たかったが、
小泉さんの畑からどっさり届けられたミニトマトを
3人で笑いながらひたすら半分に割り、ドライトマトに仕込んだ。
*
遅い午後、
ポーチのロッキン’チェアに座った店主が半眼で揺れていて
軒の向こうはしずかな雨、木々が濡れて
店内に古いブルーグラスを低く回して聴き入り、
そのままわたしも居眠りした。
わたしは彼等が年をとったら
きっとすっかり面倒を見るし、彼等が死んだら、
マザーツリーのもとに灰を埋めて、
【 can the circle be unbroken 】 を唄っては、
シャンパーニュをあけてお祝いすることになっている。
そのときのことをしみじみとおもいながら、寝入った。
先に目が覚めた店主が、寒いと云って珈琲を落とした。
眼の前の湖畔をめぐる道を、
雨だというのに多くのひとがレンタルサイクルで過ぎてゆく。
きのう3人で磨き込んだ窓から
涼しい秋の風がスルスルと出入りした。
窓硝子がうつくしいので、
そこから入る風もひときわ澄んでいる気がして
わたしたちはよろこびに満ちた。
■
Y.の容態が悪いんだから会いに行くわといって
夕方に店をあとにした。
途中、バルトに知った車があったので
秋の大沼ジャズ 【 Hot Ride - ホトリで 】 の
打ち合わせ事項も兼ねて立ち寄ると、
ワインの相伴にあずかった。
Y.はどうだろうと尋ねると、
明日お見舞いにゆくというからわたしもそうすることにした。
A氏が結婚指輪を買って
Y.とじぶんの指に嵌め、
死をまつ Y.にウエディングドレスを着せたというので少し泣いた。
先日の真夜中、
泣きじゃくるA氏から電話があったんだ。
*
そうしているとその店にはハヤトもやってきたし、
kenzo と suga 氏もやってきた。
店の隣のカンちゃんが三平汁を作って鍋ごと持ってきた。
車ですれ違うとか、ちょっと立ち寄るとか、
行きつけの店で出入りする仲間と日常的に顔を合わすとか
そういうありふれたローカルな地面つながりの関係に
わたしはとっても飢えているし、そしてそれをあいしている。
東京暮らしでもそのようなことなどありふれてはいるが、
ホームローカルならではの地面感覚は、
やはり違うとおもう。それは特別なものだ。
■
夏が行き、秋が来たのを味わうために
8月の終わりにヨットを出してシャンパンを飲もうか、
それともポーチでボサノヴァを聴きながらにしようか、
という話にいまいちばんワクワクしている。