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いやぁ。
俺もう60越えちまったよさっちん、
君はいくつになった。
- 33。
ウッハー。たまらん。
俺も年取るワケよ。
君は昔、10代だったっけなあ。
うん、あなたは昔、40代だったね。
懐かしい友だちと逢った。
うれしいな。
*
そう、わたしは33だよ。
昔のノートに、
22になったときのメモがあった。
- こんな状態で22年も生きてしまって恥ずかしい、とある。
いまは、33だ。
( 先日、ミクシィのある殿方から
イヤ君は絶対に昭和17年生まれであろうと
問い詰められてヒヤヒヤしたので )
*
33といえば昔、わたしの母も32か3だったことがある。
それと同じ、もしくは越えたか。
彼女が32か3だったときを知っている。
日曜日になると
家中の窓を開けて大掃除した。
ビクターのターンテーブルに
昔馴染みのレコードを選んで載せては、
かならず極端な大音量で音が流れた。
内容は
アダモだったり加藤登紀子だったり
サンタナだったりゾンビーズだったり
デイヴ・ブルーベックだったりした。
わたしはそれらのなかから或る日、
PP&M の暗い唄を見つけて衝撃を受けることになる。
部屋の壁一面に巨大な油絵が掛かっていて
名を 【 孤独の群衆 】 といって
それは字の如く、かなりブルーでヘヴィな抽象画だった。
わたしはよくその乾いて重なり合っている色を
爪でパリパリと剥がした。
薄水色の下には濃い青が隠れていた。
こうして濃い青が日に日にどんどん侵食し、
なおさらブルーな絵となっていった。
その絵の前に、
いま思うとやけにモードな、
とても悩ましいフォルムをした、
ナイロン繊維製のパープルのソファが3つあった。
この家具も子供の目にショッキングだった。
わたしはじぶんの外観を知らず、
この光景はいつも、
部屋の隅のストーヴのあった位置の、
かなり低いところに目線があり、そこから見ている。
トムとジェリーみたいに、
32か3の母の足だけがせわしなく行き来しているのが見える。
いつも同じシーン。
*
世界年表では、
グレン・グールドが死んだ年、
我が家の光景。