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マキさんと云えば...といって
えりさんが、
『 昼間の 』 浅川マキの真似をしたので
あんまりおかしくてゲラゲラ笑い、
六本木の真ん中で夜、
こうして人目をはばからずに大笑いする自分を
なんだかまるで
この街を我が物顔で歩く黒人男みたいだ、とおもう
声とは
届く範囲でじぶんのテリトリになってしまうから
街なかであんまり大声を出すというのはいけない
東京に居ると、
なんだかそういう気分になる
*
年に一度の、
わたしにとって大事な催しである浅川マキのステージに、
ピットインを訪れる
新宿2丁目の、
狭い安パーキングに車を入れて夜の熱帯をあるく
2丁目はラヴィリンス、
男達のあいだをスルスルスルと
大事な、といえど
ここ数年はおとずれていなかったので
ずいぶんと久しかったが
ステージはといえば
川端民生のベースが、
もうこの世で鳴ることはないのだということを
ありありと実感するハメになり
すっかり打ちひしがれてしまったので
1ステージでおもてに出た
昔ピットインの裏にあった、
店というより他人の家の裏口みたいなところで
バタさんといっしょにカタヤキソバと瓶ビール
あの彼の、真っ赤な目
*
渡すものがあったので
この同じ夜に六本木アルフィーで仕事だという
大野えりさんのバンドのところへハシゴしたが
連休前の首都の渋滞で
着いたのはステージ終了後、
えりさんと大口さんとヨネキとに加わって
車で場所を移動しておいしい蕎麦屋で深夜の食事
まるで旅に来たみたいだ
なぜか昔から
ジャズマン達といっしょに時間を過ごすのを、
そう感じてしまうのは変わらない
彼等も旅のはなしをした
旅はいいよな
年がら年中、旅詰めのヨネキが云う
*
バンドは
旅から旅へ
日常を置いて旅先で、次々とひとと出会い、
ひとは感じ、一夜の夢をみる
バンドは去るが、
ひとは余韻とともにそこに留まる
場所とひとから得る、
多くの感情の見えない糸のようなものを
彼らはいつも背中になびかせて
あらゆる土地を行き来するから
あのひとたちは何かがいつも色っぽくてずるいよね
旅を重ねる彼等の
こころがどこにあるのかわからなくて
いつもうまく話せない
*
この玉子焼きおいしいね、
でもさあのホラ、函館であの夜に食べたあそこの玉子焼き、
あれが僕はとってもおいしかったな、
なんだっけ?あのホラ、あそこ、ナントカ海岸の。
エエッ!!あの場末の食堂。
そういえば大口さん、
あのときもずっと
なんだかやけに玉子焼き玉子焼き玉子焼き、
玉子焼きがおいしいって云ってたような気がする
よかった、
あの場末の食堂が旅の彼等に
とってもおいしい玉子焼きを出してくれたので
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あそう、
旅といえばもうひとり、
「 さちよさん僕ねえ、いまリモージュ近郊に来ています、
朝飯食ってるとこ。
日本に戻るのはえーと八月の...、いつですかねえ? 」
って、
リモージュなんかがいちばん似合いそうもない男、
ゴーシュこと坂本弘道氏から連絡があった
ロケット・マツ(p.)率いる、
大所帯のジプシー族バンドで欧州ツアーの真っ最中か
朝飯食ってるとこ、
というところからしてウソ臭く、
横浜のはずれのオンボロ邸でいつもの朝ごはん、
みたいにしか感じられない彼のいつもの、
貧乏学者サウンドな言い草
例のコズミックなチェロを抱えて蓬髪で
どんな顔して歩いてるんだろ
いったいどんな顔して
クロワッサンやショコラショーなんかを?
わたし、彼においてはいつも、
まるで母のように心配
*
9月の大沼ジャズ、【 Hot Ride - ホトリで 】 では
欧州帰りのゴーシュのクレイジー・チェロもお披露目できます。
おたのしみに。