- featuring J.O.
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わたしたちの人生は
日々、というより一刻一刻、
なにかに立ち会うことの連続で成り立っている
たとえ
じぶんの与かり知らぬところで
小さな花がひとつ開くことであるにしても
またどこかで
ひとが死ぬことにしても
誰かから誰かへ伝播された
ほんのちいさな感情の起伏にしても
でもそれらはみんな、
じぶんの身体のなかにあって、
すでに知っていることなのだとおもう
身体はすべての信号を受信する
一秒後のまたあらたな一秒に、
わたしたちの身体はいつも立ち会うのだ
*
- 音楽、
音楽を聴きにゆくことは
わたしにとってその、
【 なにかに立ち会う 】 ということが
極めて積極的におこなえる出来事のひとつだ
音がつむがれてゆく営みは
時間に対しての事件
知らない場所を吹く風
そこはかとなく穿たれたどこかの深み
そのひとが得たもの、切り捨てたもの、
そのひとの視点、思慕、懺悔、
なんらかの共有や共時性、
もしくは異物、注意、謎、ものごとの深度、広大さ、
まだ生まれていないなにか塊のようなもの、
遺跡の発掘みたいに
見つけては慎重に慎重に掘り出されつつあるもの、
じぶんには知りうるはずのない、
或いは
これまで認識されなかったなにか、
そういうものをわたしたちが知るというのはいいことだ
じぶんの人生が、
或いはじぶん自身というものが、
みずからじぶんだと思い込んでいるものだけで
成り立っているのではないことを
何度でも、何度でも、認識をくりかえす
わたしたちはそれに対して、
いつまでも驚きつづける
*
昨夜わたしたちが立ち会ったのは
あるピアニストの
もとい
大口純一郎のソロという事件、
大口純一郎の現場
わたしは上記のようなことを
あいまいに心象に去来させながらひたすら耳を傾けては
しずかに興奮した
結論をいうと
わたしはこの夜の立ち会いにひどく感謝したし、
必然的に回を重ねることになるたぐいの
長いオデッセイのあきらかな予兆に興味をもった
彼のソロを聴くのは
わたしにとってははじめての経験で
ふだんのユニットやセッション、アルバムなどでの
彼の音哲学を聴き、垣間見るにつけ、
もっぱらのソロというものをどうしても知りたいと、
強烈に願うようになっていた
音楽を、
独特にやさしく芳香させるこのひとは
いったいどんな根や茎を持っているのだろう、
どんな泉の水を汲んで来たのだろう、
ああこのひとはいったいなんてひとだろうと、おもっていた
このひとはピアニストとして、
イイ意味で、わかりやすい位置にいない
ことに控えめなスタンディングぶりが、
じつに怪しいとおもう
*
ひと粒ひと粒が磨かれた石みたいに鳴る彼の音、
鏡のような水面にそっと身を投げるようにして導く音楽、
もともと
セッションやインタープレイにおいても露出する、
彼が大事にしているもののすべて、否、一部。
あこがれているもののすべて、否これも、一部。
治めてきたもののすべて、そうねこれも、一部。
これらが、
ソロではひとつの個人的な流れとして
より深く見渡すことができるうえで、
なんてこのひとは強靭で大きな原石を所有しているのかとおもう
彼が下りていった場所は
たぶんいつもの泉の在り処なのだけれども
そこからより深くて冷たい底のほう、
巨大な鉱物に触れた部分の根源的な冷たい新鮮さに
わたしはひたすら
息を呑んでばかりいたのです