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JBのランチ( 牧場 )へゆく。
「 おうサチヨ、
久しぶりだな。
じゃきょうは、あそこへ寿司食いに行こうぜ。 」
「 イェイ! 」
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わたしが10代のころから
彼独特の、あやしてくれるような話しかたにどきどきしては、
彼の衝撃的な風貌、すべての仕草、
すべての話、すべての夢、すべての教えに憧れたっけ。
こちらのほうで少し、一目置く緊張感は、いまも変わらない。
彼の生ハムを食べ、彼の料理を食べ、
馬の話、酒の話、肉の話、カウボーイの話、
ネイティヴアメリカンたちの話、カントリー&ウェスタンの話、
アメ車の話、H.Davidson の話、旅の話、人間の話、
すべてにおいて、喜ばされた。
彼というリーダーシップに対して、
誰もが年齢を問わず、
一目置いて話すような場の空気も、好きだった。
考えてみると
出会った当時の彼の年齢くらいに、
いまのじぶんが達しつつあることを、
恥じ入ってみたり。
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マイナス14度のなか、
いつまでもいつまでも馬の調教をしているJBに
なかば呆れながら、
わたしは暖かいリビングでワインを注ぎ、
勝手にディスク・ジョッキィをやり、
かたっぱしからカントリーのディスクをかけまくったりしてのちに、
ゴウゴウと燃えるペレット・ストーヴの前のチェアで眠る。
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ここから下のほうにくだったロバート家のポーチ前に、
木こりのU氏の車が見えた。
彼も呼ぼう。
「 ねえ今夜、JBと寿司だよ 」
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湖のほうで、昨日に引き続き、
きょうも朝からワカサギ釣りのお客様があるんだから来い、
といわれていたのをワクワクと耐寒準備して、
差し入れのパンとおにぎりを持参して出かけ、
半日のあいだを氷上で、アルコールとともに過ごしたあとだったので、
ストーヴがあったらすぐに眠れるんだ。
電話した大工のトイっちゃんも犬を連れてやって来て、
湖上遥か遠く、mother Mountain のほうまで歩いたりした。
白鳥たちはわめき、
駒ケ岳の雲はゆく。
さてワカサギのほうは大漁、
きのうもきょうも、果てなき入れ食い、
昨年の我々の不漁とは打って変わって
ワカサギのほうで休ませてくれないほどだった。
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ビニル製の小屋のなかで
釣りたてのワカサギを料理し、
自家製の生ハムを削ぎ、ホットウィスキーなんかで。
ほんとは小屋の中になど
入る気がおきないくらい、それはそれはすてきな寒さで
オーナーのO氏と、
この捨てがたき心地のよい寒さについて、
共感しあった。
ほんとうにほんとうに寒くて、
でもほんとうにほんとうに気持ちがよくって、平気だった。
彼も、いつまでも外のチェアでひとり、
mother Mountain を眺めて過ごしていた。
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小屋に、
aya がパートナー氏とともに、現れる。
手には彼の自家製生ハムが、骨ごとぶら下がって。
カナダのステイの話をすこし。
もっと聞きたかったね。
生ハム食べくらべ。
よっちゃんから暖かいジャガイモとコーンの蒸したやつ。
エーサクさんのおでん。
トイっちゃんのワイン。
わたしのパンとおにぎり。
ハヤトもあとで来た。
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真ダチの軍艦とにごり酒、
大絶賛しつつワイワイとブロンコに乗り込み、
酔っ払って帰ってきたJB’s Ranch は真っ暗で、
見上げると満天の星が、
満天からはみ出してこぼれている。
見ても見ても、星。
寒くても寒くても、外。
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帰還したリビングで
ふたたびペレット・ストーヴを燃し、
キャンドルに火を点け、
JBがカントリーのディスクを回して歌を口ずさみながら、
酔い覚ましにグレープフルーツを、
ぎゅうぎゅう絞ってくれた。
火の前で
犬が落ち着き、JBがチェアで身体を伸ばし、
ワイフがゆったりし、
わたしも心底、しあわせだった。
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一日は長くて、
そしてとっても短い。