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タンパク質が欲しかったので
温泉のあとで、
湖畔のセカンド・ファミリーのところへ立ち寄ると、
他にお客のなかったのをいいことに、
あいさつもなく薪ストーヴの前のソファにわざと行儀悪く座り、
足を横からブラブラさせて、だらっとして、
どうでもない話を交わし、、、
そして、
シャトーブリアンを食べた。
わたしは毎度、ここのフィレステーキを、
滞在中に何枚食べるのだろう。
そのうち、【 シャトーブリアン 】 の名も、
【 sachi 】 に凌駕されてしまう勢いで、
じきにわたしの名に取って代わることになるかもしれないとおもう。
「 フィレステーキを。焼き方は、超レア。 」
「 かしこまりました、お客様のために、sachi を用意してございます。 」
なんて、Westin Hotel あたりでも、
聞こえるんじゃあねぇかな。( 嘘 )
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蕁麻疹が恋に似てるのじゃなくて、
恋が蕁麻疹なのだ。
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あるとき何かのきっかけが引き金となって
身体がいままでになかったはずの反応をしだす。
これまでは平気だったものが、
まるでいきなり体質が変化したみたいに慢性化し、
なにがどうあっても反応するようになってしまう。
かきむしらずにいられないのは
抱きしめたい欲求とか嫉妬とかに等しい。
わたしの肉体にはいま、
薬だなんて、まったく不本意とはいえ、
抗ヒスタミン剤の投与をして蕁麻疹を抑えているが、
こと恋愛に関しては、体内に、自家抗ヒスタミン剤が流れているので、
めったなことでは恋には陥らない。
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なんちゃって。
ほんとうはすこし、泣けたんだ。
蕁麻疹は、たとえ心頭滅却したところで必ずしも、
やり過ごせるものでもない。
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雪が
ふつか二晩とひっきりなしに降り続き、
そうして快晴がやってきたので、Mt.Nee へ。
晴れた空にブリザード、
地煙が、雪のうえに、砂丘の波模様を描く。
うつくしきマイナス11度が、軽装の全身にキンキン。
帽子も耳当てもない、ウェアもない、
はなはだしく雪山をナメくさった格好をなぶられ、
極寒のリフトに耐えつつも、
それでもどうにもやめられなくって、
何度も、何度も、乗った。
山、極上のコンディションでありながら、
誰もいない傾斜を、すっ飛びまくる。
雪、あいしているよ。
斜面、あいしているよ。
樹々、あいしているよ。
向こうの連峰の天頂の牧場、あいしているよ。
海、あいしているよ。
船も見える、あいしているよ。
山の影、あいしているよ。
豪風、あいしているよ。
ゴウゴウ、ビュウビュウ。
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ロッヂで社長に会った。
「 おう、あんたか。 」
いっしょに滑りましょうよというと、
「 俺のスキーはウィスキーだけだ。 」
というからこんど、
食事に誘っておいた。ついでにワカサギ釣りも。
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トーコがいたなら
今年はいっしょにテレマークでもやりたかったな。
今朝起きると、
くちびるのあたりが凍傷で、どす黒くなっていた。
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温泉に浸かって身体を溶かしてから
鼻歌を高らかに鳴らして、メゾンへ挨拶に。
- Hi,シェフ。元気。
「 おうおまえか。なにしにきた。お汁粉食うか。 」
フランス料理のメゾンで、
まずは京都のお汁粉を食す。( 箸で )
- 肉はなにがある。
「 チキン、鹿、それから、スゲェ牛。 」
まだ値段を決めていないという、
そのスゲェ牛を当然ながら食べるのだけれども、
前出の店での、シャトーブリアンのほかに、
牛肉でこんなにしあわせになったことはないくらい、
それはそれは美味極まりなくって、
死ぬかとおもった。
フランス風牛しゃぶ、価格天井を知らず。
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この日は、ジャニス・ジョプリンの誕生日だったから
なにかお祝いしようとおもって
古いジャズ喫茶 【 想苑 】 へ。
ピアノの上においてある
数年前に亡くなった、ファンキーな 『 おかあさん 』 の写真に挨拶。
ソニー・ロリンズで機嫌よく。
あとでかかったリー・モーガンが、
ジャニスのスキャットとかぶってくる。
ジャニスが、来た。
店主と、あれやこれや。
ストーヴの前でステップを踏み。
ココアじゃイケないとおもい、河岸を変える。
テグジュペリの星の王子が
カウンタを覗きに来る店。
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雪を踏む。
一歩一歩の嬉しさが、脳天を突き抜ける。
死ぬほどうれしい。
足が、雪と、交歓する。
狂悦、狂歓、
ベン・ウェブスタよもっと古臭く、もっとしつこく、
もっとダンディに。
吼えろ。
輪姦( まわ )せ。
泣かせて。