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熱帯植物園。
ここに Bar が欲しいと、いつもおもう。
ちょうどうつくしい西陽だったので、下見にいく。
*
ロケハン写真たくさん撮ったのに、
ぜんぶ、どうしたらこうなるのかというほど、
恐ろしくピンボケばかりに。
我ながら、遠くを見る。
このガラスドームの古い植物園にランプを灯し、
本を読んで過ごしたり、珈琲を飲んで過ごしたり。
夜気に香る、巨大な植物のなかで。
*
とおもってソワソワと歩き回っていると、
蔓系植物の棚をしつらえてある下の空間に、
いきなりアップライト・ピアノが置いてあった。
この街には、ご自由に弾いてよろしいピアノがありすぎる。
酔狂!! そしてそこには、果たせる哉、
【 ご自由にお弾きください - なにかの曲を - 】
という手描きの貼り紙がしてあって、
わたしとしてはとくにこの、
” なにかの曲を ” という付帯に魅了された。
*
” なにかの曲を ” 。
( オイ叩くんじゃねぇぞガキども )
*
ピアノの訴え。
こんなジメジメしたところに置かれてるんだから。
弦もゆるいけど。
せめて、なにかの曲を。
おねがい。
それともあの掃除夫のおじさん。
( こんにちは、と声をかけてみると、「 オッス 」 と云われた。cool )
あのおじさんは、
どんな曲をよろこんでくれるのかな。
こんなジメジメしたところに置かれてるんだから。
「 せいぜい、ホンキートンクにしかならねえぜ。 」
それとも植物たち。
「 切ないシャンソン漫談みたいなのがいい。 」
「 いや、フリージャズ。 」
「 キューバに帰りたい、俺。キューバっぽいやつ。 」
「 ブラームスじゃなきゃやだな。 」
「 エンヤ! 絶対エンヤ!!俺。エンヤリクエスト! 」
「 ディープ・フォレスト! ベタやな! 」
「 あんべ光俊! 」
「 はやく誰か弾けよ( なにかの曲を )。 」
でもわたしは、
【 Let it be 】 しか弾けないんだ。
しかもヘタクソに。
キューバには帰れないよ。
*
わたしも、
わたしたちをどこかへ連れて行ってくれる演奏が、
聴きたくなった。
ちょうどベースマンのヨネキが、
札幌に来てセッションしているみたい。
会いにゆこうかな。
冬の300キロ。