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「 月、見ようぜ 」
と云って雪嵐のなかヨネキが我が社に来た
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入ってくるなり盛んに、
イイ部屋だなイイ部屋だなと繰り返しながら
室内5ヶ所に穿ってある窓から窓を行ったり来たりして
宇宙のほうを見やって研究している
- なにごと
イヤ月にさ
雲がフワーとかかってすげえスピードでよぎってんのよ
コレすげえのよ、双眼鏡で見るとね、すげえのよ
こっちで左目、こっちで右目合わすの、そうそう、
どう!見える?すげえだろ、もう超立体の世界!
月の影の部分見えるかッ!!すげえだろ!!
今走っててさ月があああイイなあとおもって
ゼッタイに見せてやろうと、な、すげえだろ、なななな
ほんとすげえんだよ、ななな、な、いいねえ!
それにしても今日すげえ冬嵐だな、寒いし滑る!
道路あぶない、ツルツル凍結!
そうオレ空港で車、マーチ借りたのよ!イヤ2駆よ、
怖いよな!2駆!危ない!これぞ北海道の冬だよな!
月すげえだろ月!!あ飛行機!飛行機!!
サッチンあれも見ろよ飛行機も!
すげえだろすげえだろ飛行機もすげえだろ!!
あッ星も出てきたね星も見えるか!
イヤー月と地球はずっと昔から
まったくイイ関係ではあったが雲だよな!雲!
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ヨネキはふだん眼が悪いから
視力の良すぎるわたしの50倍くらい、
双眼鏡の威力をかんじるのだろうとおもった
彼は天体少年(壮年)で、自作の望遠鏡まであって
わたしは前に大沼の湖畔で星を見るために
五日市街道を走って、
彼の造ったおおきな箱状の不思議な物体を、
ひとつだけもらったこともあったのだった
*
なにを隠そうわたしの肉眼からは、
月と群雲、または月の陰影の境目はいつも
ああいうふうに見えてるから
双眼鏡ナシでも毎度
空を見るたびにビックリしてるんだが
彼の異常なるハッスルぶりにこちらも盛り上がり、
空腹になって我が社を出て5軒もの店をハシゴした。
この冬最後のキンキン凍結ナイト。
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我が社は大正5年木造物件の3階
、、、 に存しているため、
先日、避難はしごの取り付け等々に及んで
消防署の立ち入り検査があった
*
爽やかに晴れた寒い朝
朝の掃除をしながら待っていると聴き慣れた声がして
颯爽という空気がすうと入ってきた
「 さあさあやりましょうかサチヨさん! 」
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颯爽の理由はあきらか!!
スクウェアな制服制帽と、或いはこのひとの人柄かどうか
つづいてY氏も入ってきた
「 オッ やっぱりあんたか
・・・・・ ここすげえな、イイ物件だな、 」
と横から I 氏がヒソヒソ云う
「 ( こういうとこは変人ばっかり集まるんですよ ) 」
「 だよな!!
でもいいなこの家具も、・・・・・ オレもなあ、
ガキのときにじいさんから買ってもらった木机、
いまだに捨てられねえで持ってる。一生持ってる。
シールと落書きと彫り傷だらけだけど、絶対に捨てねえ。 」
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2007年の ” キャバレー未完成 ” 企画のときに
さんざお世話になった物々しい消防の面々の
まさしく鬼ふたりのお揃いだったので
我が社室内に置いてあるあのときの未完成の家具類ともども、
たいへんうれしい気分だった
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I 氏は、
わたしが次、男に生まれたら
レスキュー隊員なんかになりたいことを知っているので、
帰り際にこう云った
「 どう、次、やるかい、サチヨさん、避難訓練。 」
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これは、
3階の窓から避難ハシゴを垂らしてそれを降りる!
、、、という意味かな!
ヤッター!!
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蛇足ですが
実をいうとわたしは、
ふだんの筋トレ時、ランを取り入れているが、
単調に走っているあいだの勝手な脳内イメージはなんと、
たくましい消防マンたちが、
訓練場のトラックを、グルグルと走るトレーニングの
いちばんうしろに喰らいついて走っている視線だ
( 彼らから、決して離れないように走る )
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ハーア、肉体労働から離れていると
たまにはこういうことでもなくっては
心身がめっきり、クサクサしちゃうんだよね
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