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今ヒマですか? と電話すると、
必ず 「 ヒマです!! 」 と叫ぶ某建設会社のN氏
*
わたしは、
たいてい、ズバリ忙しいと答えるので、
オトナの余裕とは
『 ヒマです 』 と云ってやることだなあと
つねづね心の隅で感心していたのでしたが、
過日の午後、事務用品の追加に
デパートのショップへ駆け込むとき別のフロアから、
ぷぅ~らり、という風情で降りてきた、
そのN氏と遭遇した
*
「 おっと!みずから営業ですかい? 」 と訊くと
「 オヤさっちゃん奇遇だなあ、僕ねえ、
今ギターの弦を買ってきたのよ、新曲作らなきゃ、
あ、” ふたりの十字街 ” と、” 大門ブギウギ ” と、
” 湯の川エレジー ” もまだ健在よ、
♪ アーックローッスアクゥロスウウ~!
ふたりのジュウジガイ~~ッ!! ♪
どう、覚えてる? 売れないかね? よろしくたのむよ、
あとね、” 青柳町へ行こう ” ッてのもあるの、
タイトルだけ決まったのよ、「 青柳町へ行こう 」 !
あ、ところで 【 青函帯企画 】 どう?
( ↑ウェブサイトはまだオフ中 )
邪魔されてない?
僕、役に立つ男だからね、そうでしょう、
何でも言ってね、役に立つ男!!!わかった? 」
・・・ と、大声で歌い立てて去った
なあんだほんとうにヒマだったのか!
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前ページ( 3月2日 ) の記事にて
温泉の駐車場でムリヤリ知り合ったマドロス氏
*
じつは直後にそれぞれ温泉へ別れたあと、
こっそり戻って彼の車のワイパーに手紙を結びつけ、
わたしの連絡先を伝えてあったところ、
翌日すぐに、
オレですと云って静かな電話が来たので
あまり日をあけないうちに夜、
訪問することにした
*
山道をどんどん行った先に見つけた入り口に、
暖簾と赤ちょうちんが揺れている
世界中の港を転々として函館へ帰って来てから、
飲食業をやってるという彼の電話に
・・・ 明かりがぼんやり灯りゃよく、
店には飾りがないが良く、流行りの歌もなく、
窓から霧笛が鳴ればよく、酒はぬるめの燗しかなく、
小さなブラウン管かラジオから
演歌がチラチラしてるような薄暗い店の奥に
客と眼を合わせず寡黙にイカを炙る、
昔のまま、在りし日の海に想いを馳せては
カモメみたいに遠くを見ているような、
心にかつての人身事件の暗い罪を着ているような、、、
高倉健を空想して、
ワクワクしながら山の道を行った
*
店だというからアポなしで行ったのだったが
どうやら店主マドロスは
あっかるい山小屋風のリビングで
奥様とふたりでくつろいで正面を見ていた
最新型巨大テレヴィジョン、
上條恒彦が熱唱している
*
「 今晩は、マドロス氏!! 」
・・・ ウッ、オエーイ、、!!
いつ来るべか来ないべかと楽しみにしていたが来たね、
だけんどよう、電話よこさないと
出すメニューの用意がねえんだココ、
そうよそうよアラアラアラアラ、
あらまあマァ、イヤイヤイヤ、ドレドレドレ、
ニュースであたしもあんたの顔覚えてるわよ、
どれどれどれどれどれ、、、
イヤイヤイヤイヤ、、、、( 冷蔵庫 )
とふたりでそわそわしてウロウロしだしたが、
高倉健がそこに居ないとなるとわたしは
かまわず囲炉裏風の座にくつろいで、
初対面の奥様への挨拶も
先日のマドロスへの失礼な対面への挨拶も
ロクにしないまま勝手に
上條恒彦に大声で唱和して過ごした ( ばかだ )
*
マドロスは上のロフトへあがって
いきなりジャズのレコードに針を落としてボリュームをあげた
( どうやら上は自慢のオーディオルームと見た )
上條恒彦の熱唱にコルトレーンのテナーが混じって、
空間がいきなり複雑に悪魔的になった
テレヴィジョンはそのまま上條恒彦から
大江ナントカ君のばかばかしい歌になり、
次は氷川きよし君の古臭いキッチュな歌になった、
そのうえでレコードはさらに
E.ドルフィーへと更新していった
キャーどっちか消してくれーい!
*
薪ストーヴの上のお茶と
冷蔵庫から金粉入りカステラが出てきたあとで
鹿肉のカレーライスが供され、
かつそのあとで焼きイモが出てきた
流行ってない歌とそれに重畳するジャズと
炙ったイカでなくてカステラとカレーライスと焼きイモ
寡黙どころか
わたしが吼えるとすかさず、
「 そうだそうだーッ!! 」 なんて拳をあげ、
合いの手を入れてはペラペラペラペラと
あらゆることに高らかと会話にうち興じ、
盛り上がりに盛り上がる、
平和な夫婦の店( 家!)だった
*
ふたりで生涯の多くを
港から港へ
車での旅にも費やしてきたペアなので
スピリットは自由で気高く話が早かった
*
結果、奥様のほうは
【 青函帯企画 】 において、
まかせてよと胸をたたき、、
キャバレー当日にはホステス役として参加、
ダンスも奮っておもてなしすることに決まり、
日ごろからこの街には
物足りなさを感じていたのよと云い、
ああ腕が鳴るわと吼えた
*
わたしはその夜遅く、
またはるばる我が社へ舞い戻っては
黙々と仕事した
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