■
朝の修道院へ
登山に耐える靴を積んで湾岸をビュンと走る
暑いのだか寒いのだかわからないので
とりあえず車内からブランケットを1枚つかんで降り、
分厚くて重い本をいっしょに抱いて、
暗い針葉樹の森を、ルルドまでゆっくり登る、
針葉樹林のなかは音がない
何者も鳴かない
*
いつものようにその聖母の前で少し眠る
そしてやっぱりいつものように、必ずハチが来る
が、これは絶対にわたしを刺さない
ここで横になるとなぜかいつも、
わたしの身体ではただちに睡眠がおこなわれる
数十分のちに目覚めてさらに上へ向かう
*
( 男子修道院の内部には、
舟越桂作のすばらしい木彫聖母像があるのに、
ここルルドのは、風雪に耐えるようにと、FRP製品か何かだ。
まるでセンスの悪い俗悪な品物で、わたしは嫌い )
その可哀想な聖母の脇から
もっと上へと伸びる、
ケモノ道のような草ぼうぼうのルートがあって
この日はこれを、高みまでゆこうとおもってやって来た
*
なかなかワイルドで急斜面なので、
杖代わりにどうぞ、という木の枝を長めに切ったシロモノが
何本も、崖に立てかけてある
修道士たちがつくったんだ
登攀中、
セーターもブランケットも放り出したいほど暑くなるが、
高みへ差し掛かるとすうすうと大変寒くなり、
だんだん呼吸は息苦しく、高山病になってくる
しまった、スニッカーズもカロリーメイトも、水も
車に忘れてきた!!あるのは分厚い本!アホか!
、、、、とおもったらとたんに死ぬような気分になった
*
ようやく辿り着いた高み、
樹木が、海という世界へ向いてひらけている
津軽海峡を見やって、
はるか対岸の大間のひとびとへ手を振り、
( フェリー / 大間-函館航路危機について )
海峡をゆく船の運航をひとしきり見守ると興奮してくる
ここを渡って、もっとたくさんの船が入り乱れていたら
なんてすてきだろうか! キャー!
*
過日、調べ物をしに高田屋嘉兵衛資料館へおとづれた
彼は数々の海を渡り来たって、
函館港の築港を展望した張本人だ
入り口で女性が、あなた以前も、といって、
奥にたまたま帰函していた、
嘉兵衛を子孫にもつ七代目、高田嘉七氏と合わせてくださった
わたしはとてもうれしくて、
来年の 【 青函帯2009 】 企画は、
嘉兵衛の気概にのっとった企画であるから、
どうぞよろしくたてまつります云々、、、と長広舌して、
大好きな嘉兵衛の気概やロシアや船についての話で
大盛り上がりし
、、、、ませんでした
不景気や、異常事態や、金融や、FRSや、首相や、
無念さや、くだらなさや、ダメさや、センスの悪さや、
性格の悪さや、世の中に関するそういう、
非常に景気の悪い話に矛先が向いて、暗々と帰ってきた
・・・ 大人たちは今、誰も彼も元気がない
わたしは、この嘉七どんをも、よろこばせたい
*
その津軽海峡をはるか眼下にして、
木の根に寄りかかってじっくり本を読む
小さな生き物たちがガサガサと
草むらのなかを歩いたり飛んだりしている
ねずみや、ピーターや、リスや、カラスや、ケケット達だ
わたしはしばらくここで、
彼らと居る
■
セカンドファミリー邸から招待があって、
別の夜、大沼へ走る
*
ろうそくの明かり
広いリビングのJBLからショパンのノクターンが
大音量で鳴って、入るなりわたしを、すごく癒す
庭で採れた野菜とハーブ
取り寄せたチーズ
とっておきのワイン
極上の粉からつくったピッツァ
黒ソイのアクアパッツァ
サーロインステーキ
彼らに
わたしは15のときから、
食事だけでなく、言葉や、知恵や、音楽や、人生の余剰部門、
いろいろなものを糧として分けてもらってきた
*
この晩、ボブ・ディランの話からはじまって、
< 函館の話 > というのをまじめに議題にしてみる
延々と有意義で信頼に満ちた深夜も更けゆく頃
「 おまえは、もう何をすべきか知っている、
俺たちはおまえに対してカネも応援も惜しまない 」
といわれたので、
後日のすばらしく晴れた日に、カネをもらいにいったら、
- 「 そんな話はした覚えがない 」 といわれ、
キツネにつままれたようになって帰った
● ● ●