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夜の、暗い部分を歩いていると
にわかに変な感じがし出して落ち着かなくなり
しばらくして天を見ると夥しい星だった
視線を暗がりに戻しても
もうあたり一面に光が見えるようになってしまい、
頭がなんとなくギザギザする
少ししか寒くない、三月の夜
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クローク氏に朝、電話した
「 何してます 」
「 アッ ハ、ハイ、た、待機中です、」
「 あアルバイトの?警備でしたっけ、峠の、寒い、 」
「 アッ ハ、ハイ、でッでもキッ来ません、仕事 」
「 車いじるの好きなんでしたね? 」
「 アッ ハ、ハイ、とても、でもわたしなんか 」
「 磨きますか?オールドカーのメッキ部分をひたすら 」
「 ス、スキだとおもいます! 」
「 行きますか? 」
「 スッスすすすぐに 」
「 アルバイトの待機はイイのですか? 」
「 一日中待っても、どうせ、こ、こ、こ、来ないです 」
場所は十字街交番の向かいの銀座通り
店のオーナーITG氏とスタイルと注意点とを
何度も繰り返して説明し、
これは
相手から頼まれてもいないのに、
勝手にわたしがクローク氏を送り込むわけだから
今日は報酬は出ないとおもうけど
出してもらえるようにつなげるにはこうこうこう、
ああやってこうやってそう云って営業してみては、
と云ったら
ありがとうございますと4回返ってきた
*
心配で胃がヘンになりながら
ようやく夕方、
時間の合間に立ち寄ってみると
峠の道路警備の仕事で少し、
雪焼けでもしたらしい赤い顔で彼、
古いBMWに寄り添ってメッキ部を磨いていたのが見える、
( ウッ 案の定、手が遅いようだわ! )
・・・・ とおもいつつドアを開ける
「 お疲れ様 」
*
「 ・・・・・・ イラッシャイマセ 」
とクローク氏、
おもむろに作業を完全にやめて直立し、
見たこともない優雅さで高級感を漂わせ、
まるで何十年もここで、
誇り高くバトラーでもしていた人みたいに、
深々とゆっくりお辞儀して云うにはわたしも驚いて、
ちょっとサチヨですよ、というと
「 アアアッアッ、スッススイマセン! 」 とあたふたした
半日でオーナーのITG氏は
彼の教育に、というより
彼の美質である丁寧さを昇華させるに成功している、、、
としておく
*
夜になって電話が来た
「 キョッキョ今日はホントにアッ
ありがとうございました!!
イイイッ1台ごとにいくら、という契約に、
シッシして、して、してくれ、クダサッ ダサッ、ダ
ださったんですよ! 」
*
その後、警備員の仕事も
待機の甲斐あって入ったらしく、
しばらく会わない
先日、国道に立つ交通安全の旗が
猛烈にはためいている日、
ああこんな日の警備さんはタイヘンだ、
棒振りでなくてただ立ってるだけの
ただ立ってるだけの
救いのない寒さはどんなにツライだろうか、
あのひと、
とおもっているとその先の工事区間のエンドに
ただ突っ立っているだけの
震えながら真っ赤にあやふやな顔をした、
ずんぐりが視界に入り、
見ると案の定、クローク氏であった!
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