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10年前、
わたしは東京で、
建築を、
書物や現物から調べあるいた時期が長くあって
じぶんで木組みの仕口や継ぎ手などを研究して、
鑿(ノミ)や鉋(カンナ)その他の道具を揃え、
練習やスケッチに没頭した
いま主流の住宅建築の流れに
非常に疑問を持ったうえでのやるせない興味から
- 結果、
あまりに甚大な敬意を表するべきものと知り、
以来、モクは触らないことにし、
現場ではコンクリートと鉄と土とが相手だったのを、
そのままよしとした
*
大工の、伝統的な知恵と技術とを必要としない
昨今の住宅建築を見るにつけ、
過日
やはりいつものように、
もっぱらひとりでメラメラと腹を立てていると
大工のトイっちゃんのことを連鎖的に思い出した
*
函館近郊の大沼在住、
漂泊の大工、トイッちゃんとは
労働者家具ブランドのチームを組んだことがある
彼氏、
こころに独特の花畑をもって日々をあるく男、
どうしているかしら
しばらく連絡が取れていないな、
と思った矢先、
ふしぎなことに電話が鳴った
*
- モシモシ?
「 ッ!!!
アッ、出だ!ウッ!!
つ、つながったッ!! さ、さちよかい?
ウオアアアア、つつつながってまったッ!!
俺トイチです!あああ、あ、
オア、は、鼻血出だ、ハナ、ハナヂ、 」
・・・・・ なにしてるの
「 あややややややひ、久しぶりでございます、
スイマセンご無沙汰してね、俺、俺、もうダメで、
腰も、脳も、筋肉も、こころもダメでね、
さちよが遠い遠い遠いひとになってね、俺、
あんたのニュースのビデオ何回も観て勉強してたんだけどね、
俺ダメだから、だっだ、デッ、か、顔出せなかったし、、
ででこないだ、とうとう仕事も辞めでしまったの、
俺だからフリーターなの、こないだ役場にも行って 」
- 『 フリーランスに 』 なった、て云うの
「 フリー、、、ターでねえのか?
フリーランス、、、
で俺、ダメダメな男だからさ、50も過ぎてさ、
見た目もっとホラ、老人じゃなーい?
もう脳がホラ、ね、ダメじゃなーい?
ちゃんとしたいのはヤマヤマなんだけども、、、
でこれではダメだとおもって、さ、ささ、さちよ、
俺の出番、ないでしょうか? 」
- ある!
*
翌日の夕方
なんとなく大沼へ向かうと
トンネルを超えた先でふしぎなことに偶然、
トイっちゃんの車と前後したらしく、
ほぼ同時にオサムさんの店に着いた
「 オウさちよ、例の ( 前出 )、
燃やされそうになったA級ディンギーはどうなった 」
( ※ オサムさん自身も、
あるクルーザのオーナーに属している )
それについては
話がわたるべき人物たちにつながったので
あとはおまかせしていると話し、
そして流れは以下のごとくなった
*
( 最近落ち目のトイチについてと )
シンプルで堅牢な、
あたりまえの、健全な家のことから、
大工たちの、眠らされたゴッドハンドについて
- その腕が、
建築で活かされないなら、
せめてあたりまえの家具でもいい、
トイチの椅子をつくってくれないか、
、、、とオサムさん
ナントカ家具の量販で買うとか
ミラノ・サローネのデザイナーズとか
そういうのでなくて、
まあそれももちろんいいんだけど、
地元の大工や家具職人がつくった、
あたりまえの、なんでもない、ちゃんとした、
そういうのを、地元があたりまえに選んで使っている、
ふだんの、さりげない、あたりまえ、、
というのって、
生活文化だよね、そうありたくねえか、ありてえね、
・・・・ と、
我々みんなの話をまとめると
だいたいこういう内容
*
観光が
観光スポットをめぐる行為を指してひさしいが
わたしたちはみんな旅をするとき、
ほんとうは、
土地特有の生活文化を垣間見たいだけだ
それを実践しているすてきなひとたちと、
そのなかで生きているひとたちと、
価値観の交差や共感を得たいだけだ
現地のひとたちが持っている土地感覚を
地面や空気を通して味わいたいだけだ
このひとたちが味わう朝、
このひとたちが知っている空気と地面、
このひとたちが味わう夜空、
このひとたちが笑いあう仲間、
、、、、 そういうものだけの、
シンプルで充足した、
そういう旅がしたいのだのに
*
この街のひとはみんな、
古い建物をほったらかしたり
壊しすぎたり新しくしすぎたりせずに、
大事に大事に手入れが継承されている、とか
この街の家のあちこちに
フツウにすてきな椅子があってなぜかみんな、
ただ 【 トイチの椅子 】 と呼んでいる、とか
この街の朝はみんな、
こぞって光のなかで窓を磨いている、
すばらしい光景だね、とか
( ↑ 最近やたらこれを力説しまくっている )
*
そういうことだけで、なにかが満ちるのに!!!
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アッ、 また腹が立ってきたのでやめます
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