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空のことを ” 天幕 ”、なんていうのは
あれは船乗りたちが考え出した言葉に違いないよ
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星々も海上にあるからには、
さすがに随分と揺れるものだ、とんでもなく揺れている
ビラビラと、
やはらかな黒い幕が波だか風だかにはためき、
まったく定かでないことだとおもう
なぜかまるで船が大地のように確かで、
空が、四方をきちんと張られていない幕のようにみえるんだから
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夜の津軽海峡 -
あの、ひときわギラギラしているのは
なんだろうかとおもっているとすぐにわかった、
周囲に5つの星々をしたがえて、
あれはマンボー座だろうとおもう
マンボー座の一等星が
すさまじく明暦に光るので眼が離せない、
マンボー座も揺れている
わたしは甲板後方の電灯のしたを這っていた
サビ止め塗装をコッテリ盛り付けた太パイプを心地よくして、
赤い毛布に包まって、そこに座って本を読む
東北自動車道を北上してきた20時間は
灼熱の、炎天の、ホットの、煉獄の、酷暑の、ぐらぐら煮で
車ともども死ぬかとおもったが
さて日暮れて海の上は、とても寒い
*
津軽海峡をわたる夕刻の船に間に合って
ふだんは誰もいない小さな船内が
難民船みたいにグチャグチャだったから甲板で過ごすんだけど
そうして4時間も海風のなかにいたので
わたしはまるごとザリザリと、すっかり塩になった
日中の路上での大汗と、夜の海の海塩と、寒さとで
じぶんがイヤになったけれども
あちこちで有事に遭って心身がボサボサになり、
困っているひとびとをおもうと、
こんなごときはなんでもない
*
そのうち船の左右に、
強烈な光がボトボトと見え出した、
マンボー座がみんな落ッこちたんだろうとおもったら
函館沖のイカ漁船群だった
こんな沖から間近に、
強烈な明かりのもとで働く男たちを見る
つぎ、男に生まれたら消防士になろうとおもっていたが、
やっぱり男は漁師に限る
......。
( さすが海上にあるからには
心までも天幕のごとく揺れてアテにならない )
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まあそのようにして函館に
やはり例によって、長大なる24時間を所要して
お盆のさなかに上陸しています、
上記、
やおらマンボー座ごときのことを長々と書いて、
お茶を濁すようなことをしているのは、
どうにも気が滅入っていて
戦闘モードに入らずにいる証拠です )
巷では
暑い暑いッて
どのひとも胡乱な眼をしていたけれども、
そのうちお盆があけてその日から、
やっぱりスゴク寒くなった
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そう、
今度の滞在がラストスパート、
そのまま9月23日に予定している、
函館旧花街・大門へのオマージュ
【 一夜限りのグランド・キャバレーの灯 】 、、へ突入する
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現場に灯を入れないうちに、
現場労働外の見えない仕事、
すなはち
あれこれの書類や原稿などの事務業務や、打ち合わせや、
膨大な事項決定や、ステージとフロア計画、それに
消防署やら警察やらオーナー氏やら印刷屋さんやらに
駆けずり回るなどのもろもろで、ハードデイズを過ごすことにして
苦手な書類作成だの、
ひととの折衝だの摩擦だの決定項目だのに明け暮れ、
暑かろうが寒かろうが
気温なんてどうだっていい、
もはや日々、クサクサとブルース気分を深くしている、
わたしだ
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が、いよいよ、
20日の月曜日から、
あの廃墟に、仮設電気を仕込む
( これまでの、ツライ発電機は卒業! )
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前出の日記を読んで、
「 防災訓練をやるなら、仲間を集めて行くからね 」
なんて申し出てくださる近所の神様がありがたいし、
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いつもの M... という古い喫茶店で会ったM氏は
そうだ、といってマックス・ローチ(ds.)の死去を伝えてくれた、
「 チュニジアの夜はトリビュートだね 」
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廃墟エントランスの
危険なオンボロシャッターをふたたび、
手動チェーンで開けていた今日、
近所のおばさまが立ち寄って、中をのぞく
「 アラーあなた東京から帰ってきたのね、
今月いっこうに開かないし、遅いから逃げたかとおもったわ、
ところでウッ!うわあ、中はまだゼンゼンひどいじゃないの、
ちょっとあんたホントにできるの?( 疑惑 ) 」
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夜、老舗S...へ面通しにゆく
混み合ったカウンタで
となりを空けてくれた未知のお客氏が、
「 あんたもしかして
未完成( 廃墟キャバレーの名 )のヤツか? 」
といって続ける、
「 ここで噂を聞いたとき、いったいどんなバカで、
どんな金持ちのデブでブスな道楽ババアかとおもったが
想像通りのデブでブスでババアだ、
フン、お前なんか失敗すればいいのに 」
そうして、
「 それはオレからの協賛だ 」 と
わたしがオーダーしたカルピスを奢ってくれた
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手描きのフライヤー、来週には印刷あがります
ちょっとだけ見せようか
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