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いつもの
危険かつ、じれったい廃墟シャッターを
手動で巻き上げながら
脚立( キャタツ )のテッペンに腰掛けて
やけに閑とした通りを眺めているとき
突然ハッとして
身体の動きがさらに止まる
これ、この風
わたしが愛しているのは
*
おぼえのある冷たい風に
ふと向こうを見ると函館山にすっかり霧がかかり
山が見えずに虚無だけがあった
ずっと昔、
この街を歩いているとき
同じ冷たい風が吹いて空気がイキナリ変わり、
どうやら津軽海峡を虚無にしている霧を見るために、
車をまわした
- 圧巻、
函館に霧が降りるとき、
いつもこの風が吹く
冷たくて冷たくて
とても冷たくてドキドキする
*
これらの粒子と
わたしたちの身体を成している粒子とは
畢竟、ひとしい物だろう
だからわたしたちは
ほんとうは、いつでも、誰だっていい
わたしがわたしである必要はどこにもなくて、
わたしたちはみんな、
同時にすべてであるのだとおもう
*
だからわたしがたまたま、
あの廃墟のハコの気持ちがスッカリわかることだって、
ちっともなんら、不思議ではないワケ
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函館旧花街・大門へのオマージュ
【 一夜限りのグランド・キャバレーの灯 】
廃墟復旧・連続労働26日目
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消防、警察、保健所、税務署、メディア、
市役所、市長、保険、オーナー、設備関連、
今回の滞在での
主だったミッションは、
おかげさまでだいたい行き届きました
そろそろ現場をクローズして
東京へ戻ることができるように段取りをしています
楽しかったな
あのひとたちの笑顔や
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先日、
少し、といって
お手伝いに立寄ってくれたカメラマンの女の子に
サビだらけのひどいスチール製の椅子、
ものすごくたくさんあるのをせっせと、
スコッチとブラシとで磨いてもらっているあいだ、
( 電動サンダーは危険なのでわたし専用です )
わたしはあちこちの外回りを済ますことができ、
「 サンキュー 」 と云って現場に戻ったところへ
ちょうど通りをやってきた、とあるバーの優しい店主が
「 ヒャー、君たち!
なにやってんの!可哀想だなあ!!
僕の実家はねえ、何を隠そう鉄工所なんだぜ!
こんなのウチの工場でバフ掛けてあげるよう!!
なんだこんなにたくさんあるじゃないか、
気の遠くなるハナシだ、
トラック持ってきてやるからさ、しばらくウチで預かるよう!! 」
という
とてもステキなオファーをくだすったので、
女の子といっしょにバンザイをした
( ちょっとかわいらしく )
ラッキーだなあ、フフフ、
*
これは、
現場には決してそぐわない風情の、
キャシャで、やはらかな彼女にこそ、感謝しようとおもう
もしあのとき、
わたしがバリバリとサンダーを回していたのだったら、
ちっともかわいくなくて
きっとこんなオファーはなかったもの
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廃墟をふたたび閉め切る1ヶ月間のために、
和歌山県在のYT社長がわざわざ
製品を取り繕ってここへ送ってくだすった、
『 カビ除去剤 』 を今夜いよいよ、
盛大に使用してみるのです
楽しみだなあ
*
みなさんへ、
すべてがありがたくてありがたくて、
適切な表現が見当たらずに
わたしといえば、悶絶するしかないのです
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