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函館旧花街・大門へのオマージュ
【 一夜限りのグランド・キャバレーの灯 】
使用予定の廃墟、復旧労働・連続15日目
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午前中は毎日、
一人暮らしの祖母(85)との時間
庭の草むしり、
買い物、
マッサージ、
掃除、
ケンカ、
病院、
・・・ その他
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午後に現場を開ける
この日は突然、
かりんちゃんと IM 夫妻が助ッ人に現われた
ソファをどんどん下ろし、
おもてへ並べてフトン叩きで叩き、
ホウキで掃き、掃除機で吸う
ついでにメイン・エントランスを手がけ、
ハンパに開いたまま、
それ以上開くことも閉まることもままならなかった自動ドアの
溝を掃除しては、開閉がきちんとおこなえるようにも出来た
スバラシイ快挙
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向かいのショップに集う、
アメリカンな車やバイクの男女が
カッコよくて平和だし、
みんな笑顔で応援してくれている
何事も、
エントランスを清めるというのはいいもので、
その後の仕事に対しても、縁起がよろしいとおもう
ピカピカにして、正装したお客様たちを迎えるところ
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先夜、
「 癒してやるから来いよ 」 と
招待を受けて走った、
大沼のセカンド・ファミリー邸
庭で採れた野菜やハーブをムッシャラムッシャラと、
ひとの皿まで手を伸ばして喰らい、
牡蠣やウニ、フランスから取り寄せたチーズ、
シャンパーニュ、エトセトラ、、、、
当日に着てゆくドレスを買ったとか
俺はカマーバンドまで買ったとか
もうすでに縁起がイイ
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エントランスには
近頃たくさんの虫たちが集まってきた
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大きなアブが入ってきて
( たぶんこれはこの土地を知っている、何者かだとおもう )
あちこち点検するみたいに飛び回った
アブ
どうもよろしくアブさん
アブサン
absinthe アブサント、でもアタマの中はフル回転
ハッ!!これは!!
アブサン中毒で死んだロートレック!!
キャバレー・ムーランルージュも応援ときた
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そのうちハエが大量に入ってきて、
グルグルしだした
ハエは
国によってはスピリチュアルな意味を持つ生き物で、
ハエの群れは聖なる場所に集うという
これも縁起がイイ
ラッキー
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M...という古い喫茶店
書類や段取りの整理がてら、
いつものように憩いに立ち寄る
ここ大門に染み込んでいる紳士たちが
囲碁を打っていたり、
競馬や競輪に興じていたり、
キャバレーの話をしてくれたり、
トーストを喰らったり、
或いは
ただ猫みたいに出入りしたりしている
店主はかのダスティン・ホフマン
函館のひとなら誰だって知っている
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開け放した扉の日差しを、
遮る影をつくったものがあったのでふと顔を上げると
そこには
涼しいこの街にはまったく場違いな、
カンカン帽かなにかを被り、
サングラスをしてアロハシャツにバミューダにサンダル、
という出で立ちの大男が立ってこちらを見た
突然、
うしろの太陽がジリジリし出したようにおもえ、
ヤシの木も見えた
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作業着にヘッドランプをつけたままのわたしを見て
にっこりとビッグスマイルを寄越し、
「 君のいるところはそんな暗闇なのか? 」
と訊くのでうなづくと
「 ...ああ、あそこに潜ってるッて女か 」 と親指を後ろに送った
「 ハハハ、どうだ、あそこはもう、ひでえ有り様だろう、
ハッハッハ、そう、ひどいもんだろうよ、ハッハッハ 」
ハッハッハ。
わたしも笑いながら
テーブルの珈琲に手を伸ばし、
次に目をあげた瞬間にはもうその男がいなかった
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なんだここは
あちこちに猫だの神様だの権化だのが
やけにウロウロしているところだね
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