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冷たい雨が続いたりして
たまの晴れの日も寒くッて
春なんてのは、だいたいこんなもんだ
何シーズンも前に
バーニーズ・ニューヨークで購入したテイ・ジョージマの、
東京ではもっとも必要のない散財だったとおもっている、
いちどたりとも出番のない極薄のコートを
車に積んで
東京、春というに於いては
着るにはまだ寒すぎるか
着たら暑くて野暮、かのどちらかになってしまう代物
とても好きなのに
コートが悪いのだか季節がいけないのだか
さッぱりわからない
*
設計は 坂茂 氏による( だよね? )、
コンテナを積み上げて造った、巨大な移動美術館へ寄ったが
世界中を遊牧する物件として、
ようするに仮設建造物であるところの、それはあまりに寒く!!
とてもゆっくりと鑑賞できた日でなかった
隣のビルのタヴァーンに駆け込んで
ぶるぶるとしながら珈琲を4杯も飲んで回顧
- しようか?
*
動物と自然と人間とをモチーフとした、
まるでフィクションみたいなうつくしい写真群、
だがこれらはノン・フィクションです、という感じで、
なおさらにフィクションみたいに幻想的な映像ブースが設えてある
アート、ことにインスタレーション( 開催中だから内容は割愛 )
という手法の前に立ったとき、いつもなんだか、なんというか、
こう、、、 都市に飽きてしまったような、
照れくさいような、もういいよ、というような、
なんといってよいかわからない気分をおぼえてしまう、
そういう見方はいつからか知らないが決して批判ではない、
誤解しちゃいけない
ただ、これらの写真群については
自然や動物に対峙させたときに、
否、天のもとに立ったときに、
ひとは、人間としてのフォルムをうつくしく在らしむべきだと、
そう念を押したのみにしても、とてもよかった
筋肉は、みなさん、しっかり保ちましょう
酒ばかり飲んでいないで
( と、けっきょく下世話な感想になった )
*
礼儀作法とは、まず健康であることだと、
かの山口瞳氏も述べてあったじゃないか
( 健康とは、
病気をしないことだけではなくて、
筋肉率が脂肪率をあるべく数字で凌駕していることを
わたしはそこに注釈したいです )
じぶんが、フィクションを撮る作家なら
砂漠の砂に吹かれる太った中年や、
深遠なる老木にも贅肉だらけの女、
象の背にムチムチのストッキングの脚、( ああイイね )
ケーキを喰らう水辺の伯父、ツルの横のデブ、
・・・・ などなどは大いに必要とするが
わたしたちはノン・フィクションに生きているのであるからして、
ああこのようなことはこれ以上ハッキリ書かずに
うやむやに誤魔化しちまうに限るね
まあいいよね
*
、、、 といってまだしつこく述べるが、
数年前、青山ブルーノートに
J.ザヴィヌルが降り立ったとき、
ちょうどその日、函館から遊びにいらしたばかりの
とある( 太った )ドクターと出かけて行った、
ザヴィヌルが連れてきたケニヤ人女性パーカッションが
( といっても始終マラカスしか振ってなかったような気がする )
ものすごい筋肉質の、やけに細い豹のような女で、
彼女、眼の覚めるうつくしいグリーンのドレスを着ていたのが
どうにもカッコよかったのをおもいだす
「 女はちょっとくらい脂肪の乗っていたほうが、、、 」
というのは人間の、浮ついてあてにならない目線でしかないような、
そんな気が、
大いにしたのだったのもおもいだす
彼女は、人目に対して、ではなくて、
それこそ天に対して立っているように見えた
この場合、天には情緒も流行も比較もなしとする、
『 絶対天 』 、みたいなものだ
細く見えても
ドレスを着た腋下のあたりに余分な脂肪の乗った手合いは、
その部分に俗というものが見えて、
生活どころか芸も、ハンパな気がしてならない、
えー、天からするとね ( わたしが云うのじゃなく! )
イヤ天はもっと寛大だったか?
*
とはいっても、
人間の浮ついてあてにならない眼に寄って云えば
太ったシンガーは世界中でも妥当だし、
古画に至っては下半身のセルライトは美であったのだし、
俗こそ妙味とも云うし、( 云うかね? )
巨乳はたいへんステキだし、
日本女性がいちばんうつくしいのは、
なにより湯屋にあって、その太った全裸を晒しているときだ、
という気も、 わたしはする、 とても、
まあそんなとこだ
天だのひとだの、イイだの悪いだの、
ああ云ったってこうも云い、
今日と、明日と、いまと、先刻では、
まったく違う人間が出入りしているみたいなこと、
ザラにあるでしょう、あなただって ( 逃避 )
しつこく述べたわりに、
まったくまとまりがついてなくってかたじけないや、
ハッハッハ~ン
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と、珈琲を飲み終えて
女子の筋肉を擁護しておきながら颯爽と、というカンジで
くだんのテイ・ジョージマに袖を通したら
ゴツいわたしの背中の筋肉によって
うしろ身ごろの袖の付け根が、バリッと破れちまいました
......
「 ファッションについて
高価なものとは、長い命を約束するのではなくて
えてして儚いもの、のことであります 」
マテリアル・ドクターSM氏かく語りき