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ベーシストのヨネキが函館にやってきて
ところどころの時間を一緒に過ごす
彼とはちょうど20歳ぶん、年が離れているが
たがいに、
年をとったとか、もう年だよなどといってけなしあうのは、
ちょっとリラックスした心地がして、まんざらでもない
長いつき合い、
というのはそれだけでハッピー
*
先日
コマヤ氏を乗せて
ヨネキが先に待っている蕎麦屋へ出向き、
ちょうど目の前にあったパーキングへ
まるで路上駐車みたいに気軽に車を入れて
係員のボックスを素通りして蕎麦屋へ入り、
2時間近くも過ぎた頃、
店を出て今度は3人で車に乗り、
またまるで路上駐車だったみたいに車を出そうとしたら
とてつもなく血相を変えたおじさんが飛んできて、
車の前で通せんぼした
駐車を申告するのも、お金を払うのも、
スッカリ忘れていたからだ、ということにすぐさま気付き、
我ながら、たいそうびっくりした
怒った顔のおじさんからの請求 ; 「 210円! 」
ゲラゲラ笑ってヨネキが云う、
イヤさっちん年だよ
しかも料金は210円だってサ!!!
*
飛んだ目をしたヤスナミさんのテナーと
函館のプレイヤーとの、
まあ言うなれば、ファミリー・セッションを聴きに
プレイヤーも客席も、全員知ってるひと
コマヤ氏のジョーク ; 「 ねえ前に出て社交ダンスしようよ 」
彼のナイフはいつだって研いである
わたしはそこに、そこはかとない安心をおぼえる
*
街中の女の子が彼に夢中だった頃
彼はピタピタの黒パンツなどを穿き、胸をはだけて、
シルヴァの車を転がしては女の子の視線をさらっていたが
いまは自宅に泉を掘った
人生は長い
あまりに濃密で、
日々はなかなか過ぎてゆかない
*
ないない、マフラーがないや、
さっきの蕎麦屋へ戻ってよさっちん、
OK
あった?
イヤないない、なかった
どうしたんだろうオイラ、年だよなあ
コマヤ氏の店で休もうよ
OK
俺トニック・ウォータね
ああッ あった、
マフラー俺、首に巻いてたよ
いやァ
*
あれメガネはどこだとか
家の鍵を見つけるのに1時間かかったりとか
毎日こんなことしてたらそのうち
アレ俺はどこだ俺は、ッてことになっちまうよなあ
うん
わたしも毎日探しちゃうんだよ
わたしを
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本町、近頃お気に入りの店で ;
レッド・ミッチェル(b)
彼のベースはチェロ・チューニングだからさ
その日彼はピアノを弾いたんだよな
それがさ
ピアノの鍵盤つうのはサ、せいぜい叩いて沈むのは
2,3cmくらいなもんだろ、ところがヤツが叩くとさ
まっすぐ地下まで沈んでなんと、ブラジルまで落ちるみたい
そういうことなんだよナ、すげえ奴ッてのはさ
物理法則もなにも超えちまうんだよナ
忘れられないよ俺、あのピアノ
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< 企画 > 滅びゆく花街・大門へのオマージュ
一夜限りのグランド・キャバレーの灯
【 チュニジアの夜( 仮 ) 】
廃墟歴が20年以上にわたる物件につき
電気屋さんと水道屋さんとに、懐中電灯で下見をしてもらう
「 ハァ、復旧は無理だべ、
いくら金があったって合わねえよ 」
・・・・・・・・・・・・
( 泣 )
と、
表記してみたものの、
実際なぜわたしはニヤニヤしているのか、
サッパリわからない
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