■
ジャワジャワと音がして
どんどん雪がなくなってゆくような心地がして
もうわたしは愕然と膝をつくおもい。
季節をまたいでの滞在は避けたいのに
春になっちまうじゃないか、
ヨネキ、あなたが函館に来るっていうのを、
こうして哀しみとともに待ってたんだ。
溶けているのは雪だが
まるでわたしの身体が溶解していくみたいに。
もう
何を見たって哀しいね。
ほんとうは頭をかきむしったり
床で手足をバタバタさせたいところを堪えて
ただひたすらに遠くを見る。
常ならざるものにしがみつくなんて
子供じみた真似は
人生においてゆるされないが
こう、万物あらゆるものが常ならざるとは、まったくつれないね。
じぶんすら。
*
霧だよそして。
ヨネキ。
【 霧の中のヨネキとわたし 】
否、【 霧の中のわたしとヨネキ 】 のほうがいい。
謙譲するばっかりがいいってものでもない。
響きは大事だからね。
場合によっては謙譲より。
もしくは 【 霧とヨネキ 】
■
ジョーから電話があった。
スカのジョー、
横須賀にいるクレイジー・ジョーってんだ。
長い付き合いだけれど
日本語の名前を知らない。
50も過ぎてゲバラみたいな格好で、
スカの街で今も、ディランかなんかを唄っている。
ちょうどきのう、レストランのテラスで
セカンドファミリーとランチの待ち合わせをしているあいだ、
半袖( 去る冬へのファックの意 )で
陽射しをあびながら夏目漱石を読んでいると。
ジョー、またお金がないんだね?
■
たまたまフリーで函館に来たベースマン、ヨネキに前日の夕方、
いきなりベースの演奏を持ち掛けると
こころよくオッケイしてくれたので
先日ワカサギのあとで見に行ったセッションで
たまたまその夜のプレイで楽しませてくれたギタリストの
連絡先を調べて から急遽連絡すると、
ヨネキさんが来るならそれはもう是非に!
といって彼もこころよくオッケイしてくれたので
バルトで翌日の夜、
ウッドベースとギターのデュオ・セッションを企画し、
大急ぎで大沼中を駆けずりまわってお客を集めて実現。
それが昨夜のこと。
空港から着いたヨネキと、
彼の実家のそばのメゾンで落ち合い、
「 中年ですがボーヤやります 」
といって( プッ )ベースを運んでくれるのを快諾してくれた、
木こりのU氏をまつ。
*
あんな夜はない。
なんという演奏。
夜に咲く花。
甘くて、いい匂いのする霧の夜。
ヨネキ。
あまりにヨネキ過ぎて。
ヨネキのソロが眼の前であまりに生き物となって、
ギターを、わたしたちを、夜を、ジャックダニエルを、絡めとってゆく。
いったい音楽とは、
どれほどの悪だろうかとおもったりする。
このひとはきっと、ベースと寝てるんだ。
わたしたち声を上げながら、
死ぬかとおもった。
■
外は霧で、
こんな真夜中、白鳥すら喉を詰まらせている。
啼け、啼け、白鳥。
どこへゆくの。
帰りなんいざ、冬の終わりに。