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あれも愛。
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D.からの着信があった。
行儀のよい、まるでビジネスの営業先の客に
親密に対応するような彼独特の留守録をくりかえし聴く。
パリリとアイロンを利かせたハイカラーのドレスシャツ。
真夜中過ぎてもピカピカのうつくしい革靴。
しどけなく酔っ払っては明け方にさっちん、と呼びかける声。
冗談。 高笑い。 首元のキザなネッカチーフ。
どれも大好きな、わたしの友だち。
しばらくここで
珈琲を飲んでから電話しようとおもって
なんとなく気に入っている、
サハリンのカフェみたいな曖昧な店で、ヴィナ珈琲。
ブルーノート・レーベルを特集した PLAYBOY 誌をめくる。
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昨晩聴いたジョー・パスの、深いリラクゼーションに
沈み込むような夜の色。
誰かがかつて愛したという音楽たちを
その誰かが思い描いた空想を、
音楽とともに抱いた思いを、感じてみる。
それらは、どこにいくのだろうか。
誰かの胸のうちから、どこかへ伝わってゆく、みえないもの。
わたしたちにもそれぞれに共有させる、みえないもの。
ものごとにはそうして見えない指紋がつき、、、
いのちは、シェアされる。
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身体に蓄積された音楽が
さらに音楽を求めてそれを取り込む。
いっしょに共鳴するひとがあれば、
それはさらに大きく取り込まれ、
それはさらに大きく求める。
音楽が音楽を求め、
わたしはまた音楽に身体を明け渡す。
じぶんをリリースする、
くりかえし、くりかえし、自由になれ。
【 わたし 】 は誰であってもいい。
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朝、母を病院へ送ってからそのまま、
ワカサギ釣りをしているであろう2名を冷やかしに、
パンを買って氷上へ出向く。
氷に穴をあけるのは、
釣り糸をたらすためのみならず、
白ワインを冷やすための天然クーラーでもあった。
ボトルネックが突き出ている。
やはり今年は、” ヒトを選ばず ” 大漁気味。
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ひとり、どんどん氷上をあるいて、
真ん中の、『 いちばん寒い場所 』 まで行く。
凍った風がびゅうびゅうと吹いて
氷の地面の、通奏低音が足から伝わる。
mother Mountain から、眼をはなさない。
彼女はわたしのことを、好きでも嫌いでも、なんでもない。
こんど氷のうえで、キンキン冷えのマティーニをつくろうな、
とオーナーがいうのは、
このあたりの 『 いちばん寒い場所 』。
そんな夜も、いいね。
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そしてその夜は待望の、南佳孝氏のライヴ。
かねてから、エビスビールのオフィシャルサイトにあった、
エビス bar ・ライヴ映像での彼の唄に
くりかえし心酔していたわたしは、
一週間前から、夜になると楽しみで心臓がどきどきした。
東京にいると、
いくらでも小さな小屋の、親密な距離で、
聴けるとはいえね。
旅のうえのミュージシャンも、好きなんだ。
アウェイでの独特な高ぶりを、感じたくて。
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彼もまた、いくつもの夜を、思いかえす。
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