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ジャズ喫茶 G...
それは小樽にあるんだ
巨大パラゴンの中央で
デクスター・ゴードンがゴリゴリと跳ねる
夏の終わりの蒸し暑い夜更け
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いつかの函館とよく似た異国風の街角を
何丁もやりすごしたり
古臭いネオン小路をゆきつ戻りつ
あちこちで酒や珈琲を繰り返したりして
古い本でも読みながら
秘密めいた仕掛けなどもうないと知っている夜をあるく
それでも
知らない土地の夜、妖しく連なる時代錯誤のネオンと、
ひとの雑踏に心浮き立つのはたのしい、
それが港町とあればなおさら
いっぽう函館は、
旅のひとにはどんなふうに見えるのだろう、
どんな気分を、どんな空想を、
ひとに与えているだろう
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日本海に沿った果てしない海岸道路の数百キロ
函館から小樽へ向かう遠回り
甚大な海と、
それに迫る山とのスキマに集落して
ひとが少しずつ住む
たいして幸福な表現をするほどでもないが
すてきに幸福な、ただある小さな存在の数百キロ...
*
いったん山のほうへ車を向けて夜になる
夜になると土中から
ジジジジジというミミズの鳴るのが聴こえます
夏の終わりのジジジジは、
だれの耳にも、低く馴染んだノスタルジヤ
虫の匂いと、外灯の放つ白けた明かりと
蛾や、小さなものたちの気配
月のない闇夜
山がくろぐろと、
昼間よりも大きさを増して背後に、ずっしりと迫る
*
旅の夜天は親密で、
ミミズよりほかに誰もいません
気持ちいいですね
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翌日は晴天の小樽マリーナ
青空に揺れるたくさんのマストと
遠い沖をゆく、
風を孕んだ真っ白なセールのいくつかを俯瞰する
*
ここはかつて勇敢にも
シングルハンド( 単独 )で世界を一周した、
OK氏のLISA号が、すさまじい大冒険の果てに、
無事に戻ってきたホームポートだ
そのLISAを駆って、( リプル、かな )
先日知り合ったエス氏はいま、
どこか沖のほうで、ヨット雑誌 K...社の取材を受けながら、
みじかい航海をしてこのマリーナへ向かっている旨
電話の向こうから太陽の声
*
陸から思いを馳せる海上と
現場であるところの海上とはまったく別物だが
その違いも含めて、想像する、想像する、
つよく想像する
なにかが同調できるまで
なにかが共鳴できるまで
海と、海の、男たちを、その港を、
これまでに知り合うことができた全部のヨットマンを、
あるいは未知の、彼らを
彼らの気持ちが、金色をしたり
灰色をしたり、青色をしたりする明滅を
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来年の 【 青函帯2009 】 を含めた、
港湾マリンについての関係に対し函館市長エヌ氏は云う
「 さちよちゃん、
俺だってずっと海をみてきた、
( 門外漢の )君ひとりが声を上げたってダメだ、
ヨット界が一致団結しなければ、
でもそんなことなんて無理さ 」
港は、その街の重要な言語だ
門外漢だがわたしはなんどでも虎穴に、ゆく
*
横にいたO氏も、
なんだということでもなく、
たぶん彼にとっても何かであるところの海をみている
ひとはみんな、海をみている
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