■
「 指定する便に乗って高松にいらっしゃい 」
という、
ある招待があって即決で応じ、
羽田から高松空港
二日間、身を捧げるつもりでいた仕事が、
1日で終了してしまって解放された
■
「 ああヒマだ 」
というセリフをかねがね使ってみたかったがこのとき、
その機会が与えられたので、使った
「 ああヒマだ 」 と云ってはね返るホテルの壁かな ( 字余り )
*
重い荷物とともにホテルを出て曇天をゆくと
次第に晴れてきて蒸し暑くなった
高松というのが、どこにあって何県に属すのかも
ゼンゼンなにも知らないまま、来た土地だった
( あとで地図を見ると、なんと四国だったよ! )
知らない土地は歩いてみるに限るし、
そのうえで、その土地ごとにおいしい珈琲に出会うために、
どこかいい喫茶店を探す、のがいい
帰りのエアは最終便、ゆえに時間がたっぷり
*
まずは身軽になるために
駅のコインロッカー目指して
方角も確認しないままとりあえず歩くことにしたが
あんまりいつまで歩いても着かないから
ずいぶん遠い駅だとおもい、
いいかげん、いやになっていると古本屋を通り過ぎた
なんとなく惹かれたような気がして引き返す
*
東京にいても、
わざわざ神保町界隈などへ分け入ってゆっくり古本探索、
ということなど、
もうここ何年もなくなっていたところだし、
こういう、時間のあまったヒマな旅の空になら、
ちょうどよいとおもった
*
ジャズのLPが少し置いてあったのを物色し、
ざっと見渡すとどの書棚にもワクワクした
軽めの本でも1冊買って、帰りの機内で読もう
古い岩波やクセジュの背表紙が並ぶ棚に見入っているうち、
案の定、やたらと本気になってきて、
床に座り込んでは次々と本を積んだりしていると
奥から店主の足が
ゆっくり近づいてきたのが視界に入ったので
見上げてニヤッとだけして挨拶とすると
座り込んだわたしの目線である、
ひくい棚のうえに、店主がトンと珈琲を置いた
- おお命の水
そうして床で飲んだそのひとくちが、
イヤもうじつに、めくるめくおいしくて、
じんわりと胃に落つるまでに形容しがたい、
アラブの偉いお坊さんのような魔法を、あじわった
すごくおいしい、というと、
つづいて何か真っ赤なものも置いていった
「 それは、すもも、だ 」
*
わたしは心地よくその店に2時間ほども滞在して、
結局、泣く泣く7冊にしぼって本を買い、
おいしい珈琲豆はどこで買えるのか問うと
北側の横丁をゆけばよいというので、
店主の指差した小道を入るとなんとなく京都を思い出しつつ、
炎天のしたを、重い荷物でてくてく歩く
勝手な空想で、
老舗風の、そっけない古い看板を描いていると、
目指す ” 蛎三(カキサン)コーヒー ”
空想どおりにそっけない、古い看板を見つけた
「 ええ、そこの古本屋さんはうちで
毎度いろいろな豆をお試しくださってまして 」
*
珈琲うまいだろう、とか
この本イイだろう、とか
これはむかし函館の古本屋で見つけたんだ、とか
陳列されていない本たちが
乱雑に積みあげられている宝棚のほうから
いろいろな珍しい、愛すべき本を取り出して見せてくれたりして
街角の古本屋
そうそう、こういう時間
そうそう、こういう思い入れや愛情や得意げな気分や、
久々のそういう、なんというか、
、、、、本の、または本を介した楽しみって
これだったな、と感じ入る
アナログ時計で生きているみたいな、
しっかりとした、あるいはザラザラとした肌理の、
感触のある時間
*
ああ、高知、ヒマでいい旅だなあ、、、
・・・ アレ、高知だか高山だかわからなくなったが、
まあ高知だったろう、高知が好きになったな、
高知はイイ、と悦に入り、
そのあと、
逃げ水の渡る灼熱のボードウォークを歩いたり、
海辺に座ってみたり、炎天でビールを飲んだり、
牛肉のパスタを食べてみたり、
港のようすを調べたり、なんとなくタクシーに乗ってみたり、
バスを待ってみたり、若いセンスを調べてみたり、
リノベーションの起こった地区をあるいたり、
珈琲をオーダーしたりしながら、
そのまま夕方まで高知だと思い込んでいたが、
空港についたら高松だった
た、高松は、イイ。
( ちなみに、香川県だそうだよ、、、
ああ、和三盆と讃岐うどんの!! )
● ● ●