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なんとなく、
カクッと
ちからの抜けるような
周囲の大人たちのこと少し
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プロの木こり職であり、
かつログハウス・ビルダーでもあるU氏を誘い
Mt.Nii ( 前ページ記 )、
かのゲレンデの経済に少しでも貢献するつもりで、
軽く数本、30分程度、
テレマーク・スキーの練習に寄らないかと云うと
「 俺ね、忙しいの
君がほら、こないだ電話で俺に紹介してくれたろ、
君が、なんでか知らないけど
【 ブラザー 】 って呼んでる社長さんサ、
そのブラザーさんトコの夢のログハウスをさ、
作るのをさ、俺がさ、 結局ヘッヘッヘ、
先生になってあげちゃってんだよねその後サ、
3人いてさ、俺がいないとタイッヘンなのサ、
なんせみィーんな素人でネ、ウヒヒ
だから最近忙しいの、俺、悪いネ、ヘッヘッヘェ 」
といって得意げに断られた
*
彼は以前、
大沼のマドンナだったトーコという女に
勝手に惚れていて、
トーコはすごくステキな女であるうえに
なかなかのテレマーク・スキーヤーだったものだから、
そのために
すでにアルペン上級者であった50代のU氏は
じつに必死の態で、
朝に夜に日曜にと時間を見つけては、
それまで長年積み上げてきた技量を
新たにテレマーク・スキーへと転じ、
それはそれはせっせと自主練習に励んでいたが
トーコが転勤で大沼を去るとともに彼、
テレマークのほうも、まるでうっちゃらかしてしまい、
昨シーズンからこちらが誘っても、
ムニャムニャとごまかすだけでちっともノラなかった
*
じゃあどれどれ
ブラザーの現場なら
立ち寄って見学でもしてやるか、
・・・ といって日曜日
函館郊外の高所にあって海峡を見下ろす、
すばらしいロケーションを臨む邸宅を持ち、
その横に大きなログハウスを自己流で建てんとしては
ひどく難儀している、
とある社長ことブラザーのところへ行った
*
かさなる修理から戻ったばかりの
ボロボ( もうボルボと呼ぶのはやめることに )
にムチ打って急な雪坂をようやくにして登り切り、
( おかげで貴重なガソリンがスッカリ、カラになった )
はるかに聴こえる愛しいチェーンソーの、
ブンブン唸っている方角へゆくと
50代の男たちが4人して
超真剣な顔でたのしそうに雪中工作
*
ふだんはどちらかというと
リーダーではなくて
独特のやさしい気遣いと笑いとをもって
愉快で善良なるムード・メイカーの役割を担当するU氏が
ログハウスにおいてはド素人だという、
ブラザー以下3人のアタマに立って得意満面でいた
ログハウス・ビルドについてはよほど
腕に覚えのある彼だし、そうして腕が鳴っているのが
伝わりすぎるほどに嬉々として
「 フフフさちよ、
これね、いま俺、” 部下たち ” の手直ししてるワケ、
ほら、ナニ? ケツ拭いてやるッてユーノ?
なんせ部下の失敗もぜぇんぶ、親方の責任だからサ、
ヘッヘッヘー、直してあげてルンダヨネ~ 」
*
そんなU氏が来てくれるまで、
ログ・ビギナーズが寄って
ケンカしたり、モメたり、まぁまぁと仲裁しあったり、
困ったり、解決しなかったり、難しかったり、
大いに遅々として難航していたらしいログハウス現場
その
竣工を夢見て主宰するのが
そこにいたうちのひとりであるところのブラザー氏、
昨年の企画、【 キャバレー未完成 】 の
内装解体した造作・備品等を保管場所へ搬出する際に
トラックと男たちとをドッサリ提供してくださった、
なにか気品の漂うふうのある運送会社の社長
本人もツナギなんか着ちゃって ( プゥップ )
やたらとたのしそうだったが
なんでもとにかく人手が足りなくって、と嘆く
*
海峡道路沿い、山の入り口に、
【 ログハウス建てませんか 】 とだけ書いた、
内容のワカラナイ、怪しい看板がある
つられて行ってみるなら、
それが
何もログハウス業者の営業看板なのではなくて、
なんと彼、ブラザー氏の趣味の家を
” 建てる手伝いをさせられる ” という算段の、
とても個人的なメッセージであるに過ぎない、
ということを知るのだがアレは、
【 ( 僕の )ログハウス建てませんか 】 とするべきだ
*
・・・・ といってもそのじつ、
まぁそんなトラップめいたことばかりでもなくて、
「 ( あなたも ) ログハウス建て
( て、この辺に住み ) ませんか
( 土地ならあります ) 」
という意味合いも含まれているようだった
とにかく彼には山があって、
その森の手入れに間伐しては丸太が出るです
『 毎週日曜日、
ヒマな方は是非お立ち寄りください 』
・・・ とブラザーは呼びかけています
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ヒマといえば
いかにもヒマそうに電話が来るから
ヒマなんですか? と問うと、
「 ええヒマです 」
と、いつものようにキッパリ答えるヒマな人があってこの人は
本業の土木屋に、
とても偉そうな肩書きを持っているんだけれども
余計なことに
” 石原十字郎 ” と自称し、
老後( というかそれは今 )の夢はソング・ライター、
と言い張り、
たくさんの、曲名ばかりを持っている
( 曲ではなくて、タイトルばッかし )
*
珈琲でも飲みに来てよたまには、
というのもすでに
何十回目かのオファーだったし
こちらは次の仕事までに30分ほどの空隙があったから
十字街にあるそのマンションへ寄った
「 どうキレイでしょう、安っぽいけどね、
ここウチの会社でやったの、安っぽいカンジでね
どう?安っぽいでしょう?安っぽいよね、
やっぱ安っぽいかな?でもキレイでしょう?安っぽいですけど?
俺ももうこんな歳してサ、キノコが生えるような暮らしは
みっともないからサ、なるべく人を招待するの、
そうすれば必死に掃除できるじゃない、理由があると 」
・・・・ と云いながらそのときになって必死に
床にクィックルワイパーをかけて歩き、
ちょうどいま、
ヒマだから函館山にでも登ろうかとおもってたワケ、
イヤなに、歩いてさ、途中までよ
上までは行かないよ、行ったってね、
どうせ1500円程度の景色があるばっかりでしょう、
決して百万ドルでなくね、
だから上までは行かないの僕、十字郎的にはね
途中がいいのよ途中
*
こちらはまじめなビジネスの話でも
しようとおもったのに十字郎、
さっそくギターを寄せておもむろにストローク
「 ♪アーックロース・アクーロスゥ~
ふたりの十字街~ !! 」
「 あ、こんなのどう、新曲、大門ブギウギ っての
♪イカ刺し食って~ブギウギ~!
♪ホタテラーメンでブギウギ~!
♪そんな大門アンタとブギウギ~ッ! ね 」
「 ちょっとイイでしょう、
俺、批判するひとキライなのよ、だからイイって云ってね、
批判するやつはさあ、じゃあ自分で作ってみな、
これ以上のものを、ッておもっちゃうんだよね、
世のメロディなんてのはさあ、
ことごとく出尽くしちまったんだよもう、そうだろう?
じゃあ次コレ、
♪ゆくわ~海峡~ アアアア~アアアアアアァーーッ!
あなーたと湯の川~ッ
これ、湯の川エレジーね 」
「 さっちゃんさァ、
【 本町ララバイ 】 の歌詞つくってってよ、今、
きょうじゅうに仕上げちゃおうよ、
俺マジなんだよね、俺、作曲家、儲けようよたまには、
君もボロい車ばっかり乗り回してないでさあ、
ねえぇ、ビッグにさあぁ、売れる曲作ってさあ 」
「 ♪ほんッちょううう~ ラァラバーーイ、
みたいなカンジがイイ?
ロカバラードな? mm、ブルーズか? 」
と、
無駄にまくしたてられているうちに
さっさと20分あまりが経過し、
来るんじゃなかったとおもいながら
そこにあった紙に、
” 帰ってきたよ この街にさ
本町~ あんたの ギョーケイ通り
知らない店がイッパイ~ フーエイホー
本町~ ツマラないから 宝来町~ ”
とかなんとか、
ブルーズ風の詞を即興で書いて渡す
*
赤フレームの老眼鏡を引っ掛けて
頭部に激しい寝グセをつけた立派な年齢の御仁が
ムキになってギターをかき鳴らし、
その、字足らずだったり字余りだったりする詞と、
格闘するみたいにしてブザマに
叫んでいるばかな図を尻目に、立ち去った
*
たがいの存在が
確固、というより浮遊しあってそれぞれに生きているような
そういう軽い感覚、
わたしはこういう大人たちにも、
その彼らの存在が、ただあるというだけで
いつも、なにか救われているんだろうと感じる
その宇宙的軽さが、
なんとなく、好きだなあ、ともおもいつつ ね
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