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雪山こそ我が家
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函館近郊に Mt.Nii という山があって
残念なことにしばらく閉鎖していたスキー場
わたしはこの山の、
木々の1本1本、コブのひとつひとつに至るまで、
すべてを把握していた ( 嘘 )
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わたしの言をまたずとも
熱烈な Mt.Nii ファンという層は
かなり厚いはずで、
上記おなじことを誇らしげに云うだろう ( 云わない )
スノウボードや、カーヴィングの板などが主流となる以前の、
オールド・スタイルのスキーヤーたちがおもだが、
わたしは彼らの
山へのロマンと礼節とを光背にしたような、
深みのあるスマートな旧来のスキー・フォームを
ずっとあいしていて、
その彼らとともに、
この山の、うつくしい傾斜や陽の当たりかた、
木々の羅列や古いロッヂ、まるい天空、
下界と隔絶したような独特な雰囲気をもつ第3リフト、
コンパクトでありながら、
バラエティに富み意外性を備えたユニークなコース、
ファミリアな親近感で包む超然とした静寂を、
、、、共通する気分をもって、まことあいしていた
( ちなみにオリンピックの佐々木明君も、
ここがホーム・マウンテンだ )
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雪山こそ我が家、
街は我らがツェルマット - ( 嘘 )
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4年前より、
その我が家に息を入れてくれた果敢な男がある
おととしだったか
いきなり思い立って会いに行った
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階段をうえまで上がり、事務所をノックして
社長さまに会いたいというと、
不審な顔をして門番の女性が奥へ消えた
「 ナニ?誰だ?なんだと?エエッ? 」 とかいう
野太くてものすごく不穏な声が聞こえたとおもうと、
奥からノッソリと、
さもガタイのイイ、用心棒のヤクザ入道が出てきた
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シャシャシャ社長に会いたいというと、俺だがと云った
ウッ!あまりに恐ろしくて、
間違えましたといって帰ろうとおもったのを我慢し、
オープンしてくださってありがたくおもっていること、
ここが我々のホームたる、こころの山であったこと、
どのような御仁かと、
人々を代表してひとめ拝みに参ったこと、
・・・・・ などなどを口上にして述べた
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恐ろしくて早く立ち去りたかったので
あとのことは覚えていないが、
( 近くでよくみると、
『 用心棒 』 のヤクザ入道ではなくて、
ヤクザの 『 親分そのもの 』 のようだった、
が、実際はちがいますので注意 )
なぜかその年は、
のちにもなんどか、
入道様へ手土産を持ってしつこく顔を出した
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そして先日のこと、
テレマーク・スキーの板を
ヒゲ氏から借りているうちにいちど、
この山で滑ってみようとおもった
( テレマークの練習は、昨シーズン中ずっと、
ヒゲ氏とともに Mt.セヴンのほうに行っていたが
わたしはその山に、特別な思い入れはまったくない )
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晴れていて、雪がすこぶる良く、
ウェアのない、軽装のわたしにはありがたかった
アルペンだったらゴキゲンなんだのに!
と何度も不満になりつつ、
テレマークではビギナーゆえに試行錯誤
何本目かのリフト乗り場に、
サングラスをしたゴツい山男風ヤクザのような、
或いは、悪役格闘家のような男がジッと斜面を見守るあり、
いったん通り過ぎてみたが振り向いて、
「 もしや社長ですか 」 と訊いたらイカニモだった、
やぁやぁやぁこれはこれは君
雪イイでしょう!
今年、俺はこだわったんです、
正月のオープンから、ホンモノの雪にな、
・・・ だって、意地をかけて北海道なんだから
( 近年の暖冬で雪が少ないうえに低山で、
閉鎖以前からマシンによる降雪は致し方なかった )
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ここへは、
その熱烈なオールドファンたちが、
やってくる
よその山へはいっさい浮気せずに、
「 待っていたぜ 」 と
くだんの、
入道の肩を叩きにやってくる
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入道は笑う、
- 今年はね
マシンを使わずになんと、大晦日9時オープンと掲げた、
ホンモノの雪で滑らせたい、どうしても、、、
誰もが絶対にムリだといったが俺は
つよく天を信じた、
- 降る、とな
眠れなかったぜ、
だが降った、誰もが仰天の70センチだ!
「 ヒョー、ヤンヤヤンヤ!!イェイイェイイェイ!!
そうですともそうですとも!猛念天を衝く!!ッてんです!
トマス・カーライルかく語りき!
” すべての大偉業ははじめは不可能だといはれた ”
ッてんです!!降るんですとも!イェッ! 」
( ↑ このウルサイのはわたし )
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かく入道は、熱い
雪山を引退すべきかと考えたオールドファンに
「 やめるな 」 といい、
ここでカネはいらねえ、生徒を教えて最後まで過ごせ、
あんたは雪山に骨を埋ずめるべきだ、
として、文字通り、
老スキーヤーのホームにあつらえた
「 イヨッ!男ここにアリッ!!
そうですとも!骨を埋ずめさしてコソです!! 」
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・・・・・ どうもわたしは
じぶんの合いの手がいちいち、
ばかに軽薄のようだとおもいその後黙ったが、
- 俺ァねえ
この山から見る天の星が大好きなんだ、、、
というところでは、
プーと笑ったのがバレたかどうかヒヤヒヤした
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- 5年間は苦労する覚悟だ
5年かけて整備して、
きちんと建て直しをしてやりたい、あと1年、、
つらいぜ...
だがあくまでもここは俺、
シンプルで素朴なままのスキー場で、
・・・・ ありてェんだよね
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ノシノシと 立ち去る男の 肩に降る
白い孤独の 音無き かなし
- つづく ! -
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