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ほんとに困ったムスメだあんたは、、
と
初対面から最後まで、
くり返しオーナー氏を呆れさせながら
廃墟キャバレーの賃貸契約をちょうど1ヶ月、
引き延ばしてもらっていた、
いよいよその契約リミットの2、3日前に、
猛烈な勢いでいろいろなひとと出会って、
出向き、また出向かれて、
いきなり保管場所が2ヶ所も提供されることとなり、
備品家具造作等保管、の希望が叶う
*
オーナー氏との話もようやく最後の決着がつき、
それで間髪を入れず、
ただちに ” 堂々と ” 、
キャバレー内装の解体工事に取り掛かったが
朝から深夜に及ぶ作業にて2日間を要した
*
職人の男手もあちこちから
いきなり駆り出されてはゾロリと集まって出入りし、
専門の七ツ道具なんかも揃い、
引越し用のジャンボ箱トラック2台も揃い、
チカラ自慢、ワザ自慢も揃い、
ワイワイとして、
それはタイヘンな賑わい裡に、
なぜかなんとなくおめでたいような風潮のうちに、
廃墟は裸になった
何度も何度も
祀ってもらった出雲大社の御札に胸で礼をしながら
わたしはあちこちに、大バールを入れた
*
わたしたちのからだはこんにちも
死なされずに人生を生かされていて
その背後には
何者かの強いサポートや運命や施しが
働いているようにおもうし、
誰かの、何かの、必死の働きかけが作用しあって
わたしは死なされずにあるように、おもう
時の流れや運命、
それはどうあっても抗えないものであるし、
かつ正しい
が、
瓦礫の下をひとりのレスキュー隊員が
絶対にあきらめなかったために生き延びた命もあるだろうし
その逆もある
絶対に手を離さなかった相棒があったので
死ななかった登攀者もあるしその逆もある、とおもえば
わたしも何かを、
生かす作用の一部でありたくおもう
・・・ と云えばおこがましい気はするが、かまわない
*
あの豪華な大キャバレーを造ったのは
現在のオーナー氏の先代
その先代の
大いなる野望と意気と情熱と空想と信とカネとが
最後までわたしに交信しつづけるのをやめなかったので
わたしも受け取るのを
最後までやめないことにしたら、こうなった
・・・・・・・・
なんて!
きっとわたしはこれまで仕事上、
溢れかえる都市の、
数々の建築や内装の解体工事において無残に、
あまりにも無残に廃棄処分にしてきた、
膨大な、ほんとうに膨大な資材やモノたちによって、
みずから呪われてでもいたのじゃないか
*
みんな生きろ
*
廃墟は
すべて取り払われ、壁も剥がされ、
あんなに重厚で堅牢でダンディにキマっていた空間がいまや、
無残な裸を晒しているのだけれども意外なことに、
なぜか清々しくて、
なおかつダイナミックなハレを感じる
次へつづく物語へと、
たぶんワクワクしているんだといい
*
電気屋さんがきてすべての配線を撤去するまえに、
隅々までうつくしく掃き清め、
出雲大社の御札と
配線を切ったいくつかの避難誘導灯とを
最後に持ち出し、
ふたたび真ッ暗な、がらんどうに帰した
どんなに目をこらしても、
もうなんにも見えない、
最初とおなじ、ステキな暗闇
*
翌日の雨の夕、
オーナー氏のところへ車を駆る
お神酒と、朝に大沼で買い付けてきた野菜と、
紅白餅と、大入り袋と、現金とを用意して、
鍵の束を封筒に入れて
顔を神妙にして、出向く
長らくのご心配ご迷惑、
まことに申し訳ございませんでしたありがとう存じます、
と 車の中で口上を、
ブツブツとなんども練習したのだけれども、
本番ではやっぱり噛んだ
*
それでもこうして、
仕舞いをきれいにしたつもりで得意になっていると、
さっき出てきた廃墟の裏口の扉を、
いつものようにバーンと開けたまま、
鍵をせずに鍵を返しにきたことに突然気づいて、
我ながらビックリして声が出た
*
あんたはほんとうに、間抜けなムスメだ、、、
と、しみじみといわれたが、
とくになんの反論もないですよ
チッ ...
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取り急ぎ、
愛する皆々さまへ
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冷やかしたり呆れたりケナしたりしてくれたキビしい皆さん、
あるいは言葉をグッと呑み続けてくれた大人の皆さん、
心配ばかりしてくださった皆さん、
いつも話を聞いてくださった優しい皆さん、
有無を云わせずに付き合わされた皆さん、
日々、或いは通りすがりに手伝ってくだすった皆さん、
現金や労力や物資等、ご協賛くださった個人と企業との皆さん、
昔話を提供してくださった大門界隈の皆さん、
遠方から駆けつけてくださったクレイジーな皆さん、
ブーイングしつつも、いつも顔を出してくださった皆さん、
メールやブログで何度もご声援くださった皆さん、
飲食の差し入れをしては、
飢えた毎日の命をつないでくださった近隣の皆さん、
お客様として立ち会ってくださった皆さん、
前夜にステージに出てくれた地元バンドの皆さん、
当日のすばらしすぎる豪華キャストの皆さん、
楽しんでスタッフをしてくれた愉快な皆さん、
生い茂るイバラを踏みしだくようにして、
さりげなく道をつけ続けてくれた消防署の皆さん、
ニュースや紙面やラジオなどで随時、
取り上げてくださったプレス関連の皆さん、
不信のうちに泣く泣く廃墟を貸してくださったオーナー、
わたしにインスピレーションを与えた故・オーナー先代、
会社をやめたり、離婚したり、女に捨てられたり、
職探しが中断されたり、奥さんに白い目で見られたり、
結婚を中止されたり、霊やダニにとり憑かれたり、
熱中症になったり、肺の中がカビで侵されたり、
人生がなにかと狂わされた可哀想な皆さん、
エトセトラエトセトラ、、
改めて心の底から、
ありがとうございました ( ゴシック太字 )
ハッハッハ
- つづく -
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