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深夜過ぎに
東京の古い友だちの S... から
月が綺麗である旨のメール
そうか、東京も月がうつくしい晩なのだ
彼、しづかな谷中あたりをまたホロ酔いで
歩いていたんだろう
*
澄明な月夜の空気が心地よいので
どこまでも歩きたくなる青白い森にわたしはいて
雲のなく、中空に満月、
明るすぎて星などひとつも見当たらない夜天
わたしはやはり寒い国が好きだとおもう
空気の層の微々とした変化に、
逐一なにかを思い出す
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2007.9.23.終了
函館旧花街・大門へのオマージュ
【 一夜限りのグランド・キャバレーの灯 】
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みなさん、ありがとうございました
累計350名、
多数動員そのものが成功だとはいつもながら、
まったくおもわない
そのぶん、
多くのかたにご不満ご不便を抱かせたことでしょう
それでも会場では多くの嬉しい面々とお会いでき、
嬉しい声も、たくさん頂戴しました
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贈り物 -
東京のマテリアル・ドクターSM氏からは100本の薔薇、
八王子のジャズ好きのパン屋さんからは巨大カンパーニュ、
札幌ススキノからはホステス、夕張からはカメラマン、
東京からはイチバン乗りで遊びたいという酔狂なドクター陣、
さらにスタッフ有志のS氏まで羽田から飛んできて、
あちこちからお祝いや電話やメールや花々 -
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ところで
そのうえすばらしかったのは
助ッ人のみなさんだった
バーマン5名、黒服5名、ギャルソン9名、受付3名、
用務員3名、ホステス20名、照明3名、PA3名、
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廃墟、という奇縁で
その大詰め、ラストスパートに集ってくだすった、
すべての助っ人のみなさんが
ビックリするほどものすごく本気なカンジで
それは激烈に
汗を流して仕事をこなしてゆくさまは、
どの角度から見てもおもしろかったし頼もしかった
キリキリ舞いのなかで
すべての助っ人が、
まるであたかも
” 廃墟キャバレー未完成のプロ ” みたいだった
*
わたしは彼らみんなに、
どうあってもギャラを支払いたい一心で、
じつは人知れず、あちこちとケンカしてきた
*
全員が、配置についた
全員が、じぶんの才能と労力と知性とを
爆発的に発揮しつづけた
全員が、自由だったし、じぶん自身の王だった
全員が、相手を認めた
全員が、他をフォローした
全員が、激烈にじぶん自身を活かした
スゴイ顔だった
わたしはどのひとの顔を見ても、
そのスゴさに、安心した
*
本番中、
各持ち場においてのスタッフ間、
ステージでのさまざまなショーの裏では
インカムを使って
指示や情報交換する激しい緊迫をともなうピリピリした空気のなか、
ムードメイカーのひとりがどこかで、
「 いやあ今夜はイイ夜ですなあ 」 と、抜いた
「 サイコーでえす 」
と、
ザワメキをバックにして誰かが応じる
この瞬時わたしは、
まるで宇宙飛行士たちが轟音をともなった真空のなかで
億万の星々のあいだをゆったりと漂って
遠き地球を眺めつつ、
それらを互いに堪能する永遠の時間のはざまにいるような、
ふしぎな感覚をおぼえた
*
いまわたしは、
全員の特質を把握している
誰がどの部分にどれだけ手をかけたのか、
を全部、知っている
誰がどんな仕事をするのか、
どうやって仕事に取り組むのかを知っている
どのひとを主人公にしても、
わたしは物語が1本ずつ描ける自信すらある
無駄なものはなにひとつなくて、
それぞれが持つすべてのものには
おさまるべき持ち場があって、
いうなれば、
『 キャバレー未完成体 』 というようなものを形作った
キャバレー未完成もやはり、
ひとつの宇宙、フラクタルのひとつとなった
*
全員が、ほんとうにすばらしかった、
すばらしすぎて、笑える...
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終了後のいま、
わたしはまたひとりで
廃墟を廃墟にもどす日々を過ごすはずだった
が
毎日やけに、まだみんながいる
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一夜の夢をみて
廃墟をもとの廃墟へと
また忽然と戻すという遊びは、
じつに当初からのコンテではあったが
モノの価値ということに立ち返ったときに
ああこの街はこうして
たくさんのものを葬り去ってきたのかとおもう
モノだけでなく、
建築ごと、スピリットごと、歴史ごと、エトセトラ!!
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あのひとが磨いた壁、
あのひとが磨いた椅子、
あのひとが落としたホコリ、
あのひとが磨いたシャンデリア、
あのひとが磨いた裏階段、あのひとが磨いた木床、
あのひとが直していたあの場所、あのひとが運んだ大理石、
あのひとが叩いた幕、あのひとが褒めたキラキラ、
あのひとが入れた灯り、あのひとのステージ、
あのひとの真鍮、あのひとの天井、あの人のノンスリップ、
あのひとがやった装飾、あのひとが起こしたデータ、
あのひとが造ったデザイン、あのひとの思い入れ、
あのひとのあのひとのあのひとの
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本番の日に、
入場料を支払ってやってくるゲストの、
誰ひとりにも気づかれないような細部の細部まで、
裏の裏まで、
みんなにくりかえし、磨き込んでもらった
あの場所は、
ほんとうの意味でキレイになった
とはいえそれについて
愛着や愛情やこだわりやセンチメンタリズムや、
そういったものなどとは別の地平でわたしは話す
粋も酔狂も離れていい、
純粋なる価値観として、わたしは話す
モノの存在について、わたしは話す
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あの場所が、
あのひとたちがみんな、
さらにしあわせになる方法があるような気がするから
ちょっと待っててくれないか
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