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「 よく会えたな、会長に 」
無口なホフマン氏がニヤリとしながらやって来て
ぼそりとわたしに云い、テーブルに珈琲を置く
- イヤ先日、こちらの女性から電話があってねえ
「 だろう会長、最近このひと、
ウロついてんだよこのあたりを 」
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真っ暗な廃墟から這い出て、
古い珈琲店で温まりながら、
目の前にいる二枚目な会長氏に
お願いしますとしつこくわたし、食い下がっているところ
*
お会いする前から電話で
見せるのはやぶさかではないが
あそこを使用するというのは 99%無理ですから、
とさんざ釘を刺されていたし
その他の場所も
廃墟のほとんどが、もう取り壊されて更地になっていたし
さまざまなひとが紹介してくれていた物件も、
おしなべてどれもピンと来なかったり、
断られたりしていたのとで
じつのところ少し、
滅びゆく旧花街である大門に
一夜のグランド・キャバレーの灯をともす、
【 チュニジアの夜 (仮) 】 に諦念が混じってきた頃、
「 必ずある、必ずある、」 と念じながら
夢の会場を探す最後の砦がそこだったとはいえ、
99%無理ですという言葉に、心が重かった
*
懐中電灯を1本たずさえて、
モンマルトルのアパルトマンみたいな
暗くて古い、コンクリートの埃っぽい階段を昇り、
暗澹として静まり返る廃墟の内部をひとすじ、
照らしてみる
すでに身体中がチクチクしてかゆかったが
わたしは興奮状態に入り、
話す言葉がいちいち詰まる
なぜなら
じぶんの頭の中だけでずっと描いていたコンテと
不思議なことにまったくおなじ間取りと意匠とが
その20数年ぶんのホコリのしたで眠っていたからだ
*
長いことわたしに話しかけていたのは、
ほかでもない、この場所であった
こういうことなら
99%無理なのではなくて、100%可能だ
*
「 これは天からの思し召しです 」 とかなんとか、
すこぶる怪しいことをつぶやいたりなどして
オーナーである会長氏をひたすら、
真っ暗闇のなかで口説く
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先夜のこと
パーティを片付けたのち、
国土交通省運輸支局ボス氏の招待で
深夜の蕎麦
ボス氏、
葉巻も似合うが往年のドラマーぶりもよく似合う
夜な夜な集まってくる
趣味の素人ミュージシャンのガタピシ演奏のうち、
ボス氏もドラムスに加わってアニマルズのインストとなったので
どれつき合わせていただくか、とおもい
マイクに向かって発声してみると
はげしいエレキ音のなかで
モニタのないじぶんの発声は惨憺たるありさまで
我ながらとてつもなくガタピシとした、
淺川マキバージョンの 【 朝日のあたる家 】 を
歌い散らかして、
解散した
*
タクシーに乗り込み、
煉瓦倉庫脇に停めておいたボルボを拾って
コマヤ氏の店へ寄る
やけに喋りたかったわたしは
珈琲をオーダーしておいてやけにペラペラと喋り
ついでに彼の担当するラジオ番組の
特別テイクに参加することにしていたので
それの収録をおこない、
マイクに向かってペラペラと喋ったし、
そのあともやはりペラペラと喋りまくり、
イヤそれはもう喋り散らかして、
朝の5時半にようやく、彼を解放してやった
ようにおもう
*
迷惑であったろうが、
済んだことは仕方がないよ
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