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その朝はふたりともオフだったから
ゆっくり寝坊するはずが
マンションの真下で工事が始まっちまって
T氏がゲンナリしながら
開け放しにしている窓を閉め切る
わたしはなにより
この工事の音を愛しているから
朝からにこやかなものだが
この工事、具体的にいうとハツり。
漢字変換で出てこないが石偏の文字。
文字通り、石あるいはコンクリートを削るまたは砕くこと
T氏は起きるなり早々に、
うるさくて居られないから俺、散髪に行ってさらに
今夜の食材を仕入れて来るぜ、
と云ってヒラリといなくなってしまった
わたしは掃除をしながらデズモンドを回し、
窓という窓を開け直し、
ハンマードリルの轟音を聴く
一本はただの電動ピックで
二本はハンマードリルだ
バリバリとかドドドとかいう音の上に、
機械の特性上のピタンピタンという高音が乗るのを
モンゴルのホーミーみたいに聴いたりする
一本はマキタ、
もう一本は日立。 (嘘
ヴェランダ付近に腰掛用の二尺の脚立を移動し、
そこに腰掛けてうっとりと窓の下の音に耳を寄せ、
手に取るようにわかる工事の状況を想像すると
しずかな興奮で呼吸が苦しくなる
ああ好きだ。心底。
好き~だよ工事、オマエが~
C A♭ Gm
10時の休憩にはわたしも珈琲を淹れ、
始まるのを待ってふたたびヴェランダに寄る
すばらしい音はなおも続き、
わたしは耳が離せない
ノミの先が丸くなってゆく感じ、
振動を加えてややしばらく経ってから
その石なりコンクリートが分離する感じ、
ノミの硬さ、柔らかさ、
それがハネる感じ、もしくは馴染む感じ
コンクリートの気持ち。
あらゆることを考えて
なおも同化しているとやがて音が止まり、
カンカンといってノミを外す音が聞こえて道具が置かれたが、
これはメシってことだ。
ハツリ屋は早飯を常とする職業だが、
早過ぎるね。
じゃあわたしも、
ッて
わたしはこの日の午前中をすっかり、
ほぼ何もしないでヴェランダに耳を寄せていただけだ。
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変化に寛大でありなさい。
変化を受け入れがたかったときは
じぶんが壊れてゆくほかなくて
それは記憶にも新しいことだから学習するとしても
いろいろな流れがあるでしょう、
いろいろな流れが。
いや流れるならまだいい。
ノン。
流れている。
わたしたちはいつも、地球ごと。
証拠?
音楽でも聴きに行けばわかるよ。
音楽が厳然とそこにあって
いのちを持った存在として見ることが出来たとき
わたしたちは日々、
否、一瞬一瞬、
なにかに立ち会っていることを知る