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明け方の雨が上がり
暗い昼間、孤独な修道院への道を登った
濡れた草を踏んで
断崖のせり立つ高みをトンビが舞う国道と
海
*
わたしはここからのさびしいさびしい風景を愛している
カサブランカの強い匂いと重い空、
その曇天にたゆたう海を愛している
わたしはいつも、
特定のひと以外の会話を欲さない
会話は苦痛
けれどもいちばん欲しているのも会話
*
きのう
まだ続くいろいろな方へのお礼の合間に
大沼へ出向いて、大好きなフィレ・ステーキ (1) を解禁。
suga 氏へのお礼と打ち合わせも兼ねて一緒に食べた。
その後、帰宅しては
滞在していながらもしばらくのあいだ放っておいてしまった
祖母に付き合って、
彼女のつくった濃厚な豚バラブロックの煮込み (2) を食べた。
その食事の最中に
さきほどフィレ・ステーキをお腹におさめてきたレストランである、
わたしのセカンド・ファミリーから呼びたてがあって
またそこへ戻るとリヴィングには誰もいなくて
アンプを引き出して灯を入れ、赤くなるのを覗いていた
最近不調だというJBLの片側から
勝手に大量のジャズをあれこれ流しているとき、
キャノンボールの Mercy Mercy Mercy を発見してひとりで踊った
そして先日の 【 海辺のジャズ 】 の無事を祝って乾杯し、
さらには
大きなハンバーグとピッツァと
2本のワインでのディナー (3) に相伴した
...なに? この胃。
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疲れたといってドアを開けると
さちよさんあなたに、
といって
ゲッツとドリューの 【 First Song 】 を回してくれた
とある店のご夫妻
この曲は
ずっと以前、まだ十代の時分、
ヨネキのツアー先の、神戸はサテンドールで聴いた、
サンボーンの音がいまでもめくるめいて頭のなかで鳴る
いわば
じぶんにとっての 【 First Song 】 たるもの
世界が広すぎたころの、あの旅の日々で
街の果てすら
想像で出来ていたころの、あの旅の日々で
先日はラジオで
ヘイデンとメセニーのデュオによる、
同じ曲をリクエストしたんだ
街は
聴いてくれたろうか
*
わたし、
楽器の中ではベースがいちばん好きよ
だけれどもじぶんでやるなら
ティンパニがいい
きっと上手く叩ける
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先日の 海辺のジャズ にいらして、
たいそう喜んでくださった中の某企業が
うちをどうにかしてくれないかという話を寄越したので
立ち寄らせていただいて話を訊いた。
みんな函館の現状を憂えているが
わたしもそのひとり
周囲を見渡しているうちに
街の惨状にはふたたび泣きたくなったが
あるアイディアがあったのでそれを彼に伝えて
互いに笑う
さよなら
淋しい人々
すでにあなたの笑顔すら、すっかり淋しい有様で
わたしたちは
あなたがたが築いてきたこの街に憧れて育った
こんどはわたしたちが恩返しする番
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最後のお礼まわりをしつつ
( 一週間かけて営業したあとのそのフォローは、
やはり一週間かかるってことか )
入院している花屋さんを見舞ったりしてその後、
またあの寿司屋へ寄った。
まっすぐに伸びた桜の並木
明るい刻限に暖簾をくぐるのがちょうどいい
どうもどうも、毎度いらっしゃい、
といって真っ赤な蟹の内子で歓迎
カウンタには見知った面々、
あとから入ってくる顔も見知った顔。
友だちの牧草地に鹿が出たって、
撃ったとか撃たないとか
育てて数年後の食用だとか
わざと大仰に野蛮なはなしをしたり
今夜、
真夜中過ぎのフェリーに乗って
青森から東京へ向かうわたしに
食べおさめの今生のお寿司と家族みたいな会話が
とてもすがすがしい夕暮れ