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湾岸線をゆき、
函館をはずれて、M...という築港へ
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昼のうちに山汚れしたわたしの車の随所から
夜の風に乗って
光る蜘蛛の糸が3本、
闇に漂い、それぞれスーと遠くへ伸びてゆく
3匹とも海のほうへ
なぜか絡まりあうこともなく!
彼らはどこに着地するのだろう?
築港に車を停めて、
夜にも旅する彼らのキラキラを横目にとらえながら
外灯のあかりの下で
借りたばかりの本をムリヤリに読みつつ、
なんども眼をあげて、
彼ら、飛ぶ蜘蛛たちのゆくえが気になった
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わたしたちは日々、
100ものメッセージをあらゆるものから受けている
あらゆるものから、手を差し伸べられている
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わたしは毎日名前を呼ばれ、
そのたびに身体じゅうに力がみなぎる
わたしは名前を呼び捨てにされるのがすきだね
子供たちからも、大人たちからも
ひとは
名前を呼ばれると、なにかに気づく
なにか、気づかなければならないものがあることに気づく
潜在する建設的な力が、呼び起こされてゆく
わたしも名を呼ぶひとでありたい
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さてこれからの自分のために、
なにか強いお守りが必要だ、とおもいながら、
閑、として誰もいない早朝の函館駅前をあるいていると
とある視線とぶつかった
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大きな身体をした老アイヌ人が自転車を停めて
はるかに、ジッとこちらを見ている
その真正面からどんどん近づき、
「 おはよう、マーちゃんでしょう 」
と挨拶すると、
「 なんで俺の名を知ってる 」 というから
「 そんなこと誰だって知ってる 」 と答えた
「 今からどこへいく 」
「 ちょいと東京へ 」
「 おっと、、好んで行くとこじゃねえな 」
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「 ・・・ 俺、これをあんたにやろう 」 といって
彼の、フジコ・へミングみたいな体躯にたくさんぶらさがっている、
ありとあらゆる得体の知れないもののなかから彼は、
ヒモを通した熊の爪を選んで、首からはずした
ヒモを火で炙って自分のものとしろ、といって
ライターを寄こしたから云うとおりにして首を通したとき
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生々しい獣の匂いに背中の毛がゴウゴウと総立ちになり、
うしろで熊が、カッと奮い上がった感覚がした
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スゴイ、いいお守りだ
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