- かけてもかけても、おまえと電話がつながらなくて、
もう俺たち、そっちはどれほど楽しんでるのかと、
気になって気になって、
こっちの新年会なんかぜんぜんつまらねえし、
早く合流したかったのに、なんだよ!ばか!もう寝る!
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ハッハッハ。
ご免、A氏。
電話なんかどこかにすっ飛んでたようだ。
だってさ、最高だったんだもの。
今度はだまって、はじめから一緒においでよ。
■
前夜に函館の街の
コンサートホールで演奏した東京のカルテットのうち、
テナーマンだけが翌日も居残り、
街のちいさな jazz bar で、
地元のプレイヤーたちとジャムセッションをする、
という情報(BY SHARE'S MASTER )があったので、
大沼でのワカサギ大会ののち、
我々ジャズ好きのメンツと、ジャズ初体験の年配組も誘い、
街まで戻って、その小さな店に押しかけた。
ひとりは、わざわざいちど帰宅し、
カントリーシャツとハットを脱いでシャワーを浴び、
ブーツも街仕様に着替えてやってきてくれた。
わたしも新たに、ハット着用で、出向いた。
カウボーイ・マインド、
彼らは昼と夜、オンとオフの節操を重んじるひとたちで、
まわりにそのような大人が、当たり前にたくさんいてくれることは、
わたしにとって、昔からとても心地がよかった。
たとえ気軽な友だちの店に晩の食事に出かける、
というときでも、きちんと敬意を表して正装し、
気分を整えることを、かつて教わった。
彼らにとってそのことは、
決して気恥ずかしいものでも、照れくさいことでもない、
親密な、あたりまえの礼儀だった。
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地元プレイヤーとのセッションだから、
すぐ眼の前で、つぎつぎと繰り出されるは、
あまりにゴキゲンなスタンダード三昧。
「 お客がいい 」 と云ってもらうのは函館の誇りだから、
ステージが深まるにつれ、
わたしたちも心底、
ばかみたいに真剣に盛り上がった。
というより
昼間からのアルコールに寄るところも多々
椅子に決して接地しないといわんばかりのピアノマンの
スイングにスイングにスイングを重ねるプレイにあおられ、
時折チラリと出るブギに泣かされてこちらは、
合いの手を入れ、笑い声をあげ、大喝采し、叫び、揺れまくる。
もっと、もっと よ!!
テナーのリフに悶え、
ラッパのカデンツァに汗し、
ギターを賛美し、ドラムスには思わず立たされまくり、
そのまま長い長いスタンディングオベーションを送るに至った。
声は枯れ果てた。
それはもう、これ以上ないくらい、沸きに沸いて、
3ステージまで続いたセッションに芯からメロメロになっちまって
笑ってゆるんだ顔がもとにもどらないまま、
からだがグラグラ揺れたまま、
膝の貧乏ゆすりが助長されたまま、
こころがトロトロに溶けたまま、
声が枯れたまま、
叩きすぎた手のひらが痛いまま、
口が、「 イェイ 」 の形に固まったまま、
店を出てみんなで真夜中の食事をしているときに、
前出のA氏からの電話に出た。
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夜よ - 。
そうしてみんなと別れ、
おなじくメロメロの コマヤ氏を乗せてそのまま、
彼のところで珈琲を入れていただくことにし、
ふたりで、だらだらと過ごした。
朝から続いた、異常にハッピーなテンションを
ジュンのキャンドルと珈琲で
ナチュラル極まりないつぶやきのモードに替え、
だらだらと、過ごした。
スピーカから鳴るサックスが、
さっきまでの余韻みたいに響くのに、ときどき反応したりしながら。
so natural