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寝泊りしている祖母宅の
日本式の庭をともなった玄関アプローチの真ん中に
ずっとクワガタがいた
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毎日、キャバレー企画の現場後、
外まわりを済ませてから深夜に帰るたび、
「 あッ、クワガタだ、弟君に知らせてやろう 」 とおもう
がすぐに、
弟君はもうこの町にはいないし、
すでに30も超えた、大人の年齢であることに気づく
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クワガタ氏、
あんまり毎日おなじところにいるから、
踏まないようにどこか木の陰へやろうと屈み込むと、
それはとっくの昔に踏まれていて、( 何者かに )
なんだ、とおもう
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ある晴れた午前中、
弟君の代替として
通りがかりの子供を呼び、
「 クワガタの死骸を見せてやろうか 」 と云った
「 でっかいの? 」
「 中の下よ 」 と会話し、
喜んでついてきた彼に指差す、
「 ほら 」
「 ・・・ これカナブンだよ 」
なんだ、そうか
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2007.9.23.予定
函館旧花街・大門へのオマージュ
【 一夜限りのグランド・キャバレーの灯 】
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先夜のこと
昔、くだんの 『 キャバレー未完成 』 にて
歌うたいをしていたという女性を訪ねて
彼女の店をノックした
アア!!ようやく来てくれたのね、待ちくたびれたわよ、
といってクルクルと笑うお姐さんだった
あんたにはすっかり共感している、
こうなったら中途半端でもいいからやりなさい、
誰にも文句は云わせないわよ
...と励ましてくださった
( かといって中途半端をやるのだったら
わたしは逃げます )
フルバンドのスコアも全部とってある、ということで
当日はなんとしてもステージに立っていただくつもり
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昨日は、
別の時期の専属シンガーだったという、
これまたうつくしいレディが
娘様とおぼしき女性にともなわれて現われた、
やはりスコアもすべてとってあるそうだ
すずめ姉妹だったかすずらん姉妹だったか
スノコ姉妹だったという、
なんでも双子のきょうだいで唄をうたっていた、
「 月にいちどしか休みが取れず、
30日間歌いっぱなしだったのよ 」
時系列はさまざまでも、
ひとつの建物の歴史が、
『 ひと 』 という形をとって如実になってゆく
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さちよさん、
先日のTVニュースの中で
キャバレー未完成の資料として使用されていた中の、
バンドの写真にわたしたちの父が
サックスを吹いているところが映った、あれは確かに父です、
父はもう亡くなったが
わたしたちも父の軌跡を見たく思う、といって
往年のサックス吹きだったある男の家族が
手ぬぐいにエプロンを用意して3人で集まってくださった
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求職中、ハローワークの帰りです、
職がなくてカラダがナマッているから
僕はあなたじゃなく自分のために
カラダを使いたい、手伝わせてほしい、邪魔はしない、
、、、というクローク氏
黙々黙々黙々、といった仕事ぶりに
「 ありがとう 」 と声をかけると、
「 断じてあなたのためじゃありません 」 と言い張る
わたしは逐一に、ありがとうと云ってしまうから、
何度もおなじやりとりの繰り返しになる
じゃあ勝手にやれ、
ケガをしないで
わたしのためでも未完成のためでもなくッても
こちらはあなたの労力がありがたいに変わりないよ
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煙草のヤニと積年のホコリとで
すっかり輝くことをやめたガラス玉の装飾が
この廃墟の内装には多々ある
気が遠くなるほどの
それらのひとつひとつを
丁寧にみがいて、切れたジョイント部はテグスを通して直す、
という内職を、延々としてくれた女性、
「 うわあタイヘンですからほどほどに、」 というと
あたしはここで、
長いこと食べさせてもらったホステスよ、
、、、といって黙々と作業を続けて帰った
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” キャバレー未完成 ”
この場所の重みを
毎日毎日、わたしは深く、知ることになる
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積年の煙草のヤニとホコリと二酸化炭素、
クモの巣と魑魅魍魎たちの垢によって
それは惨憺たる風情であった、
そしてそれでもなお高天井を飾る、
黒ずんだ飴色に濁りきったシャンデリア -
わたしがひとりで磨いても
ある程度以上きれいにならなかったシャンデリアが、
あたらしく現れた若い女性たちの、
( スゲー美人 )
入魂徹底ぶりによって、
昭和29年当初の写真のごとく、
真っ白のクリスタルになってしまった!!
皆の衆!! 亡霊たち!!
驚くなかれ!!
否否、飛び上がって驚いてもらう!!
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未完成の花化粧、刻一刻と ( ベベンベン! )
佳 境 !!!
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