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吉祥寺での仕事の帰り道
この時期の東京が特有する湿気と間延びした夜、
まるで呑気なアクビみたいな刻があって
古いレコード店なんか覗いたりしてブラリ、
そんな先夜のこと、
10年以上前によく出向いたジャズクラブで
旅帰りのヨネキ(b.)の入った、
ゴリゴリな感じのトリオがあったので
2ndステージあたりから顔を出す
地下へ降りるまえにふと
ピアノの大口純一郎氏と電話がつながった
たまたまオフの晩だったらしく、
電話のあとでわざわざやって来てくれて
彼もいっしょに、
この夜のトリオを聴いた
わたしの横でピアニストが
眼の前のピアニストのプレイにイェイといい、指を鳴らす
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- ようさっちん、オーイェー純ちゃんも!
さっきまで大西順子(p)も遊びに来てたぜ、もう帰ったが、
ってヨネキがいうそのフィーリング、
ああ東京ッぽくていい、とおもう
「 なあヨネちゃんさ、
きょう着てるシャツの影響もあるのかもしれないけど 」
( ↑ キリンみたいなイカしたシャツ )
「 ヨネキがベースを弾いてるのか
ベースに弾かされてるのかわからないような、
一心同体、ってカンジが出ててさ、
すごくよかったよ、いやあホントに。 」
シャツ( キリンみたいなイカした )の影響もあるとおもってしまう
大口さんはすごくイイなあ。
横でわたし、
ばかのように笑いをこらえながら
泣きそうになった。
わたしもおもう。
ヨネキはいつもベースの、その黒子だ。
すごく宇宙的な意味で。
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ああせっかく名前が出てるので
featuring 大口純一郎 を
*
もっともっともっとじぶんに想像力が欲しいとおもう。
わたしは飢える。
このひとのいるところ、
このひとの自然、
このひとの全体、
このひとの自由、
このひとの慈悲、
わたしという楽器が完全に共鳴するまでの。
砂金取りみたいに
さんざ聴いたあとで手のひらをみても
ほんの小さな金の粒が輝いて残されているのみで
それを繰り返して繰り返してようやく
すこしずつ堆積してゆくような
魔法のような、
否、仏様のような彼の音楽に
わたしは日常的に steinway を背中に持ち運んで
彼の歩くところ歩くところで差し出したい気分だ。
将来わたしは
グランドピアノを常にどこにでも持参して調律する、
すぐれた影となってみたいもんです神様へ。
*
彼が最後に出したリーダー・アルバム、
【 Big Smile 】 はちょうど5年前の今日、
夏至の前後にリリースされている。
( 米木康志b. 本田珠也ds. )
あっ なんだか解説調になったが
わたしの、
ずいぶんと集中して聴ける愛聴盤のひとつ。
いいトリオだなあ。
ずっと以前わたしは
テープに残された渋谷毅というピアニストが
ふいに叩く一瞬のかすかな特別の不協和音に
臓器を掴まれるおもいがして呼吸が止まり、
繰り返し繰り返し繰り返し
その一瞬を巻き戻しては聴きつづけたことがあって
そのテープはもう、
ある日実際に切れてしまって、いまはない。
内容は違うがあのときみたいに
彼らの音がわたしの身体に金の流れとなって
身体中がその極上の自然にしずかに圧倒されて息が止まる、
というのを何度も何度も経験し、
ついしつこくリピートして回してしまうことになる。
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わたしはいまこの文章を終えたくないような気がするので
フワーッと行ったままにするわなぜなら
今夜これから
代々木公園での夏至祭りに
そぞろ出かけるためです無責任にも。
みなさん、すてきな夏至を。